2024年のノーベル賞では、人工知能(AI)の進展に寄与した研究者たちがノーベル物理学賞と化学賞を受賞しました。ノーベル物理学賞は、ジョン・J・ホップフィールド氏とジェフリー・E・ヒントン氏が、人工ニューラルネットワークの基礎技術を確立したことにより受賞しました。一方、ノーベル化学賞は、デビッド・ベイカー氏が新しいタンパク質を設計した業績と、デミス・ハサビス氏とジョン・M・ジャンパー氏がタンパク質構造を予測するAIモデル「AlphaFold2」を開発した業績に対して授与されました。彼らの業績は、AIの基礎技術から、生命科学への応用まで幅広くカバーしています。
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ノーベル物理学賞:人工ニューラルネットワークの進展
ノーベル物理学賞は、ジョン・J・ホップフィールド氏(プリンストン大学)とジェフリー・E・ヒントン氏(トロント大学)に授与されました。彼らは、物理学のエネルギー最適化や統計物理学の概念を応用し、人工ニューラルネットワークの基礎技術を開発しました。これにより、データのパターン認識や再構築が可能となり、現代の機械学習の重要な礎を築きました。
ジョン・J・ホップフィールド氏は、データ内のパターンを保存および再現するための連想メモリである「ホップフィールドネットワーク」を発明しました。このネットワークは、ピクセルに相当するノード同士のエネルギーを調整することにより、欠損した画像や歪んだ画像から元の形状を再現することが可能です。ホップフィールド氏は1933年に米国イリノイ州シカゴで生まれ、1958年にコーネル大学で博士号を取得し、その後ベル研究所やカリフォルニア大学バークレー校などで研究・教育活動に従事しました。現在はプリンストン大学の名誉教授を務めています。
ジェフリー・E・ヒントン氏は、ホップフィールドネットワークを基礎に新たなニューラルネットワーク「ボルツマンマシン」を開発しました。ボルツマンマシンは統計物理学のツールを活用し、データの特徴的な要素を自律的に認識することが可能です。この技術は、画像認識や生成タスクに活用され、AIの現在の急速な発展の礎となっています。ヒントン氏は1947年に英国ロンドンで生まれ、1978年にエディンバラ大学で博士号を取得しました。現在はトロント大学の名誉教授として活動しており、「AIの教父」として広く認知されています。
ノーベル化学賞:タンパク質構造の解明
ノーベル化学賞は、生命の基礎であるタンパク質に関する画期的な発見をした研究者たちに授与されました。デビッド・ベイカー氏(ワシントン大学)は、まったく新しいタンパク質を設計する技術を開発し、デミス・ハサビス氏とジョン・M・ジャンパー氏(共にGoogle DeepMind)はタンパク質の複雑な構造を予測するAIモデル「AlphaFold2」を発表しました。
デビッド・ベイカー氏は、2003年に既存のタンパク質とは異なる新しいタンパク質を設計することに成功しました。その後も、ワクチンやナノマテリアルなどさまざまな用途で使用できる新しいタンパク質を生み出し、医療や材料科学の分野に新たな可能性をもたらしました。ベイカー氏は1962年にアメリカのワシントン州で生まれ、カリフォルニア大学で生物学の博士号を取得しました。現在はワシントン大学の教授を務めています。
デミス・ハサビス氏とジョン・M・ジャンパー氏は、AI技術を活用してタンパク質構造を高精度で予測するモデル「AlphaFold2」を開発しました。この技術は、アミノ酸の配列からタンパク質の三次元構造を迅速かつ正確に予測するもので、科学者たちが新しい抗生物質の理解を深めたり、プラスチックを分解できる酵素を開発したりするための重要なツールとなっています。ハサビス氏は1976年に英国ロンドンで生まれ、ロンドン大学で博士号を取得し、現在はGoogle DeepMindのCEOを務めています。ジャンパー氏は1985年に米国で生まれ、シカゴ大学で博士号を取得し、現在はGoogle DeepMindの上級研究科学者です。
「AI関連のノーベル賞受賞」で一言
ノーベル賞は「物理学賞」「化学賞」「生物・医学賞」「文学賞」「平和賞」「経済学賞」の6つの分野から構成されています。ITは情報科学として位置付けられており上記の枠組みに明示的に分類されないことから、AI関連で物理学賞、化学賞2領域での受賞は驚きを持って受け止められました。情報科学が学問としての市民権を得つつあることに、多くのAI研究者らから喜びのコメントが出ているようです。
私自身研究者でもなんでもありませんが、ノーベル賞が物理や化学の側面から評価されたように、AIの面白さは、多くの学問分野からその進化が支えられていると考えています。人間の神経細胞を模しているので脳科学がコンセプトであり、それを演算処理として表現する数学、実行するハードは物理学が重要な役割を果たしています。現在の生成AIの盛り上がりがこれらの基礎研究の蓄積から構成されていることを思うと、AIに対して畏怖のような感情を抱きます。