Google I/O 2025 では、Gemini 2.5 ファミリーの性能ジャンプから XR グラスまで、AI トレンドの“今”が一挙に公開されました。本稿はその中でも 検索エージェント・生成メディア・XR デバイス といった“体験フロント”にフォーカスし、生活者と開発者の双方が押さえるべき 6つの進化点を俯瞰します。AI Mode/Deep Research が牽引する検索のエージェント化、Agent Mode と Project Mariner が実現する Web 自動化、Imagen 4・Veo 3・Flow・Lyria 2 による生成メディア革命、そして Beam や Android XR グラスが拓く没入型インターフェースまで、ユーザー体験に直結する革新を整理し、導入前に検討したいポイントをまとめました。
AI検索
昨年ローンチした AI による概要 (SGE) が「調べる→読む」の手間を大幅に削減した一方で、ユーザーからは “最初から最後まで AI が伴走してほしい” という要望が急増しました。そこで Google は今年初め、実験ラボ Google Labs で英語版 AI Mode の限定公開を開始。本日からは 米国の一般ユーザー にも段階的なロールアウトを開始し、数週間以内には検索バーに “AI Mode” タブ が常設表示されます(表示例は開発中のイメージで、実際の UI とは異なる場合があります)。

AI Mode は Gemini 2.5 のカスタムバージョンを搭載した “最強の AI 検索” で、① 高度な推論、② マルチモーダリティ、③ ワンクリック深掘り の三拍子が特徴です。内部では Query Fan‑out と呼ばれるアルゴリズムが働き、入力クエリを複数のサブトピックへ細分化。ユーザーに代わって 数十〜数百の検索クエリを並列実行 し、従来よりもはるかに深くウェブをクロールします。今後の新機能はまず AI Mode に実装 → フィードバックを基にコア検索へ反映、という “プレビュー → 本採用” のサイクルで磨かれる予定です。今週からは Gemini 2.5 が AI Mode と AI 概要の双方に組み込まれ、レスポンス品質が一段引き上げられます。
AI Mode 内蔵の Deep Search は、上述の Query Fan‑out をさらに強化。数百のクエリを同時発射→膨大な結果を横断分析→信頼できる引用元をリスト化した 専門家レベルのレポート を 数分で生成 します。医療制度比較や法規制リスクの洗い出しのように「資料作成に丸 1 日かかる」類の調査が、ランチタイムで終わるイメージです。※画面は試作品につき変更の可能性があります。


Agent Mode
日頃 Google 検索 を使うのは、レストランを予約したり、イベントのチケットを手配したりと、最終的に「何かを達成する」ケースがほとんどです。Google は Project Mariner で培ったブラウザ操作エンジンを AI Mode に統合し、検索クエリを起点に“行動”まで自動化する Agent Mode を試験公開しました。
Gemini が裏側でクエリファンアウトを駆使し、複数サイトを横断検索→フォーム入力→在庫確認までを代行するため、ユーザーは 「今週土曜日の野球の試合で低層階の手頃なチケットを2枚探して」 と自然言語で指示するだけ。AI Mode は Ticketmaster や StubHub など数百の候補をリアルタイムで分析し、条件に合う座席だけを提示します。購入時はお気に入りのサイトを選んで決済する仕組みで、主導権は常にユーザー側にあります。


Search Live
カメラを向けた対象をリアルタイムで認識し、音声対話で追加情報を返す Search Live は Project Astra の研究成果を検索に落とし込んだもの。DIY の配線ミスや子どもの自由研究の実験手順を“映像を見せながら”相談でき、回答も映像+音声で返るため学習曲線が短縮します。低帯域でも動作するストリーミングモデルを搭載し、5G が届かない地方でも利用価値が高い点が見逃せません。

AIショッピングパートナー
AI モードはショッピンググラフ(50 億点超の製品データ)と連動し、商品探索から決済までを縦串で最適化します。新搭載の試着機能は 1 枚の全身写真をアップロードするだけで、衣服のシワや伸び具合をシミュレートし、自分の体格でのフィット感を提示。価格トラッカーは任意の希望額まで下落を監視し、達成時にはエージェントが Google Pay で自動購入まで完了させます。EC の離脱要因である「サイズ不安」と「買い時判断」を同時に解消する狙いです。


Imagen 4 / Veo 3 / Flow / Lyria 2
最新世代の生成モデルがそろい踏みし、”想像→制作→公開” のサイクルがまったく新しい速度に突入しました。静止画担当の Imagen 4 は細部描画と文字レイアウトの精度が飛躍的に向上し、販促ポスターや SNS バナーをプロンプト一行で DTP レベルまで仕上げます。従来比 10 倍速のライト版も備わり、A/B テスト用バリエーションを数秒で量産できるのが強みです。

動画領域では Veo 3 が 60 fps 対応の高忠実度レンダリングに加え、ナレーションや効果音など音声トラックを同時に生成。静止画→動画→音付き動画というフローをワンストップで完結させ、SNS 広告から短編映画まで幅広いフォーマットをカバーします。

これらをノーコードで束ねるハブが Flow です。Imagen で作ったキービジュアルをドラッグ&ドロップでタイムラインに並べれば、AI がカメラワークやトランジションを自動補完。生成後も手動でカットや延長ができるため、ディレクターとエディターを兼ねる“AI マルチロール”を実現します。
音楽生成の Lyria 2 は声部(メロディーライン)と伴奏を分離して書き出せる点が進化のポイント。TikTok 向けの 15 秒ジングルからゲームシーンの環境音まで“権利クリアなサウンド”をワンボタンで生成し、映像・静止画と同時並行でクリエイティブを磨けます。
Android XR(Beam・XRグラス)
数年前の I/O で披露された Project Starline は、遠隔地でも同じ部屋にいるかのような“実体感”を実現する 3D ビデオ技術として注目を集めました。そこから得た知見を踏まえ、Google は次のステップとなる Google Beam を発表。6台のカメラで撮影した 2D 映像を AI で合成し、毎秒 60 fps・ミリ単位ヘッドトラッキングで 3D ライトフィールドディスプレイにレンダリングします。対面会議の仕草や目線まで再現する没入感は圧巻で、HP との共同開発による初代デバイスが 今年後半 に一部顧客へ出荷予定です。

こうした“目の前に現れる相手”をさらに日常へ溶かし込むのが Android XR という新プラットフォームです。Gemini 時代に合わせて設計された初の Android 派生で、ヘッドセットからスマートグラスまで“視線と音声”で操作する多様なフォームファクタを支えます。Samsung と Qualcomm と協働で発表した Project Moohan ヘッドセットは、仮想無限キャンバス上でアプリを並べ、Gemini が視界を理解して操作補助を行うことで UX を一変させます。
一方、スマートグラスは 「AI があなたの視点で世界を見てハンズフリーで助けてくれる」 というビジョンを具現化。カメラ・マイク・スピーカーを内蔵し、オプションのレンズ内ディスプレイに必要情報だけを表示。I/O デモではメッセージ送信や予定作成、ナビゲーション、リアルタイム翻訳字幕などを披露し、言語の壁を超える可能性を示しました。Google は Gentle Monster や Warby Parker、さらに Kering Eyewear などファッションブランドと提携し、“毎日掛けたくなる” デザイン性を追求。Samsung との協業も拡大し、ソフトウェアとリファレンスハードウェアを今年後半から開発者に開放する計画です(日本での提供は未定)。

「Google I/O 2025 」について一言②
AI Modeの本格運用により、情報探索行動が二極化すると予想されます。従来のWebページ訪問型検索から、情報の性質に応じた使い分けが進むでしょう。具体的には、医療・健康情報のようなリスクを伴うファクトベースの検索では、引き続き従来の検索手法が重視されます。一方、「AIエージェントとは何か」といった概念理解を目的とした検索は、概要把握で十分なケースが多く、AI Modeへの移行が加速するはずです。この変化は、Web集客に依存する事業者にとって看過できません。従来のSEO戦略は、検索の目的や性質によっては効果を失う可能性が高いです。AIO(AI-Optimized)対応が叫ばれているものの、Perplexityのような AI検索での引用表示が実際の集客に結びつくかは疑問符が残ります。むしろ、個人の専門性や独自性を前面に押し出すSNS中心のアプローチへの戦略転換が急務となるでしょう。
Android XRの発表は、AI時代のインターフェース覇権争いの本格化を意味しています。AppleがJony Ive率いるLoveFromを買収したタイミングでのGoogleの動きは偶然ではありません。モバイル市場では日本国内こそiPhoneが優勢ですが、グローバル規模ではAndroidが圧倒的シェアを握ります。ブラウザ市場での現在の優位性も含めて考えると、Googleの基盤は依然として強固です。AI時代のUI進化は、ヘッドセットやスマートグラス、さらにはBeamのような3Dホログラム技術まで多様な可能性を秘めています。技術名称だけ聞くと目新しさはないかもしれませんが、この領域での先手必勝が次世代のデジタル体験を決定づけることは間違いありません。
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