人工知能(AI)は、私たちの生活や仕事の在り方を大きく変えています。AIの導入は、業務効率化や新たなサービスの創出を可能にし、多様な分野でその可能性を広げています。画像認識や音声認識、自然言語処理など、技術の進化は目覚ましく、それに伴い産業全体での活用も急速に進んでいます。一方で、導入にあたっては課題も多く、目的の明確化やデータ整備、適切な技術の選定が求められます。
AI(人工知能)とは
AI(人工知能、Artificial Intelligence)とは、人間のような知能やそれを実現する技術を指します。東京大学大学院の松尾豊教授は、「人工的に作られた人間のような知能、またはそれを実現する技術」と定義しています。
一般的には、人間の脳が行う認識や理解、推論などの知的活動をコンピュータで実現する技術を指します。近年では、ChatGPTなどの登場により、AIが広く普及する時代になっています。
AIの研究は1950年代から始まり、現在も発展を続けています。今後は家庭やビジネスの場面で活用される機会がさらに増えると考えられています。AIは、人間に近い知能を持つコンピュータとして解釈され、人工的かつ知的な振る舞いを再現する技術です。
AI研究者のジョン・マッカーシーは、AIを「知能を持つコンピュータプログラムを作る科学と技術」と定義しました。さらに、AIと関連する技術として、機械学習や深層学習(ディープラーニング)があります。機械学習はAIを実現するための手法であり、深層学習はその中の1つのアプローチです。
AIの進化により、生活が便利になるだけでなく、仕事のあり方も大きく変わると予測されています。一方で、AIが人間の仕事を奪うという懸念もあります。
AIを導入するメリット
AIを業務に導入すると、効率化やコスト削減が期待できます。例えば、RPAを利用してデスクワークの定型業務を自動化することで、人件費の軽減や生産性の向上が可能です。
現場作業や技能が求められる職種でも、AIを活用すれば効率化だけでなく、作業中の事故リスクを減らすことができます。また、AIは正確な作業を継続的に行い、体調やモチベーションに左右されません。このため、業務の質を一定に保つことが可能になります。
AIの活用は、人間の負担を軽減し、生産性を向上させる重要な手段となっています。
AIによる代表的な技術
画像認識
画像認識はカメラやセンサーで取得した画像データから情報を分析し、内容を識別する技術です。顔認証システムや工場での異常検知、医療分野での画像解析など、幅広い分野で活用されています。以前は膨大な画像パターンを記憶させて判断していましたが、現在ではAIが画像の特徴を自動抽出し、より高い精度で識別が可能になりました。
AppleのFace IDでは顔認証技術が用いられ、Google Photoでは写真を自動で分類する機能が搭載されています。また、防犯カメラではAIが不審行動を検知し、万引き防止にも活用されています。
音声認識
音声認識は音声データを解析して文字に変換したり、その内容に基づいて機器を操作したりする技術です。議事録の自動作成やコールセンターでの音声記録、スマートスピーカーでの操作指示など、日常生活や業務で広く利用されています。
AIの活用により音声認識の精度は向上しており、AppleのSiriやAmazonのAlexaなどが代表的な例です。駅案内ロボットでは多言語対応の音声認識技術が導入されており、効率的な案内が実現しています。
自然言語処理
自然言語処理は人間が日常的に使う言葉をコンピュータが理解し、処理する技術です。チャットボットや自動翻訳、文章要約などのサービスで活用されています。AIは膨大なデータを基に言葉の文脈を解析し、高度な文章生成やスパム検出も可能です。
Google翻訳では多言語間でスムーズな翻訳が行えます。テキストマイニングでは文章を分析し、流行語や感情を抽出することで市場の動向を把握する助けとなっています。
データの分析・予測
AIは蓄積されたデータを分析し、将来の傾向を予測する技術も持っています。例えば、店舗の顧客数や売上を予測することで、マーケティングや在庫管理を効率化できます。天気予報や広告の最適化などでもこの技術が活用されています。
AIは過去のデータを基に規則性や傾向を分析し、精度の高い予測を行います。こうした技術は、ビジネスの意思決定や効率化に貢献しています。
異常検知
異常検知は正常時のデータを基に異常を識別する技術です。製造業での不良品検出、医療分野での病変部位の発見、防犯分野でのセキュリティ強化など、多岐にわたる活用事例があります。
AIの異常検知により、人間の判断に頼っていた業務を正確かつ効率的に処理できるようにします。
AIが活用される業界
金融業界
金融業界ではAIがクレジットカードの不正使用検出などに活用されています。利用者ごとの利用パターンを把握し、膨大なデータを分析して不正を検知する仕組みが導入されています。検知後には自動で通知するシステムも実現しており、人の手では難しい処理を短時間で正確に行っています。AIの導入により、業務効率化が進み、今後さらに多くの分野での活用が期待されています。
農業
農業分野でもAIの導入が進んでいます。人手不足や高齢化が課題となる中、収穫物の仕分け作業などでAIが利用されています。品質や大きさなどの基準を設定し、AIが自動で等級ごとに仕分けを行うことで、従来の手作業を大幅に効率化しています。AIは農業の現場における重要な解決策として、今後の活用拡大が見込まれています。
医療
医療業界では非接触検温ツールや顔認識技術を活用したAIの導入が進んでいます。赤外線カメラを用いた検温機器により、非接触で体温測定が可能となり、感染症予防に貢献しています。また、最新の顔認証技術は、マスク着用時でも正確に認識できるため、多くの医療施設で導入されています。AI技術の発展により、医療現場での効率化がさらに進むと考えられます。
製造業
製造業では自動走行ロボットや不良品検知、異常検知などにAIが活用されています。自動走行ロボットは工場内で障害物を避けながら作業を行い、不良品検知では大量の製品を短時間で正確に確認します。また、動画解析を用いた異常検知技術や流動体の性質を分析する技術も進化しており、製造現場での品質管理や業務の自動化が進んでいます。
教育現場
教育業界では学習塾で生徒個別のデータを基にカリキュラムを自動生成する技術が導入されています。リモート授業の普及により、教室に集まらなくても質の高い授業が受けられるようになっています。また、学力診断や受験対策にAIが活用されており、膨大な試験データを基に効率的な学習プランを提案する技術も発展しています。
AIの活用事例
ベルシステム24:コンタクトセンター業務の効率化
ベルシステム24は、通話データからナレッジベースを自動生成する国内初の機能を備えた「Hybrid Operation Loop」を開発中です。このソリューションは、生成AIと人間の協働に基づく”Human-in-the-Loop”を活用し、高精度な問い合わせ対応を実現します。Hybrid RAG技術により、関連性の高い情報を効率的に検索し、回答精度を向上させます。2025年の提供開始を目指し、コンタクトセンター業務の効率化と顧客体験の向上を支援する取り組みです。
参考:https://www.bell24.co.jp/ja/news/bell24/20241128/
トランスコスモス:コールセンター品質の向上
生成AIの登場により、問い合わせ対応業務が大きく進化しています。コールセンター業界では、生成AIを活用して回答の質を高め、生産性を向上させる取り組みが進行中です。トランスコスモスは、生成AIをオペレーター支援に導入し、難しい問い合わせ対応でのエスカレーションを6割削減することを目指しています。生成AIがFAQや仕様書を参照して回答を提示することで、顧客の待ち時間短縮やスタッフの負荷軽減が期待されています。効率性とサービス品質の向上が狙いです。
参考:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02596/092900002/
サントリー食品:商品の擬人化
サントリー食品インターナショナルは、「C.C.レモン」を擬人化したキャラクターを生成AIで制作するプロジェクトを期間限定で開始しました。顔、衣装、声、動きは生成AIを活用し、セリフは文章生成AIで作成しました。顔はスタッフの顔写真を基に作成され、衣装はボトルデザインを参考に生成されています。声や動きは人間のデータをベースに生成されており、生成AIを活用した新たなコンテンツ制作が進行中です。
参考:https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/SBF1399.html
伊藤園:AIモデルによるCM
伊藤園は、生成AIで制作したモデルを起用した「お〜いお茶 カテキン緑茶」のテレビCMを9月に放映開始しました。AIが生成したモデルの使用は国内初で、SNSを中心に話題を集めています。CMは未来の自分を描く内容で、生成AIを活用して年齢変化を表現しました。商品パッケージも生成AIを用いてデザインされ、デザイナーとの共同作業で仕上げられています。
参考:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC235T00T21C23A0000000/
大林組:設計業務効率化
大林組は、建築設計の効率化を目指し、米SRI Internationalと共同でAI技術「AiCorb」を開発しました。この技術はスケッチや3Dモデルから瞬時に多様なファサードデザイン案を生成し、設計者向けプラットフォーム「Hypar」と連携することで、デザイン案を3Dモデル化します。設計初期段階での合意形成が迅速化し、顧客満足度の向上と設計者の業務効率化を実現します。
参考:https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220301_3.html
LINEヤフー:生産性向上
LINEヤフーは、全エンジニア約7,000名を対象にAIペアプログラマー「GitHub Copilot for Business」を2023年10月13日より導入しました。テスト導入では、1人あたりの1日のコーディング時間が約1~2時間短縮され、生産性が向上したことを確認しました。導入にあたり、著作権侵害防止や生成コードの信頼性向上のためのeラーニングとルール整備を実施。生まれた時間を新たなサービス創出に活用し、エンジニアの生産性向上を推進します。
参考:https://www.lycorp.co.jp/ja/news/release/000862/
AIを有効活用するために
目的を設定し効果測定を行う
AIを効果的に活用するためには、明確な目的の設定と効果測定が重要です。まず、解決すべき課題を明確にし、AIの導入によって得たい成果を具体化します。たとえば、顧客対応の時間を短縮する、または不良品の発生率を低下させるといった目標を数値化することが効果的です。
次に、導入前後でKPIを測定し、成果を定量的に評価することで、AIがもたらす改善効果を確認でき、必要に応じてAIモデルの改良や運用方法の見直しを行うことで、持続的な改善が可能になります。
AI技術を選定する
自社の課題に適したAI技術を選択することが成功への鍵です。たとえば、画像を扱う場合には画像認識技術、時系列データを扱う場合にはLSTMなどの技術が適しています。課題とデータ特性を十分に理解し、最適な技術を選ぶことが重要です。
既存のAIソリューションを利用するか、カスタム開発を行うかの判断もポイントです。どちらが適しているかを見極めるためには、専門家に相談するのが効果的です。
データを整備する
AIの性能は学習に使用するデータの質と量によって大きく左右されます。そのため、目標に合った質の高いデータを十分な量収集し、適切な前処理を行うことが必要です。ノイズの除去や欠損値の補完、データの正規化などを丁寧に行うことで、AIモデルの精度が向上します。データ前処理はAI導入における重要なステップの1つです。
AI人材を確保する
AIの導入と運用には専門的な知識を持つ人材が必要です。自社での人材育成は長期的な視点での取り組みが求められますが、即戦力が必要な場合には外部の専門家やAI関連企業との協業を検討するのが現実的です。AI人材の確保と育成を並行して進めることで、持続可能なAI活用体制を構築できます。
最後に
人工知能は社会や産業の在り方を根本的に変えつつあります。効率化や品質向上、そして新しい価値の創出に寄与する一方で、その導入には綿密な準備が不可欠です。適切な目的の設定やデータの整備、技術選定、人材の確保が鍵となります。また、AIの活用事例からは、さまざまな分野での革新の可能性を感じ取ることができます。これからもAIは私たちの生活や仕事において重要な役割を果たし続けるでしょう。効果的な活用を通じて、より良い未来を築いていくためのヒントを得られるのではないでしょうか。