企業の生成AI活用第一歩は汎用ツール:18のユースケースをご紹介

汎用ツール

生成AIを活用するにあたり、ChatGPT、Gemini、Claudeといった汎用ツールを契約する方も多いと思います。いずれのサービスも無料プランが用意されており、非常に始めやすくなっています。

一方で、シンプルな対話機能に、独自情報の取得、検索、データ分析など最小限の機能で構成される汎用ツールがある中で、様々な機能を伴ったツールも山ほど登場しており、初心者にとって何から始めれば良いのかわかりづらくなっている気もします。また大企業でChatGPTを利用する場合は、セキュリティの観点からシンプルな汎用ツールしか(またはその中の限定された一部機能)しか利用できないケースもあります。

生成AIの可能性は機能の使い込み次第で無限大ではあるものの、汎用ツールがもつ最低限の機能を使ってみる、ということが生成AI活用の第一歩となると思いますので、ユースケースとして想定されるものをご紹介します。

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ChatGPT、Copilot、ExabaseといったAI関連ツールが多くサービス提供される中で、企業におけるAI導入アプローチを俯瞰的に整理しています。どのようなタイプのツールがあり、結局何を使ったら良いのか、シンプルかつ感覚的に、かつ短時間で理解されたい方におすすめです。

目次

生成AIの活用アプローチ

 ChatGPT、Gemini、Claude・・・生成AIサービスは数多く存在します(それぞれの違いについては次章で簡単に触れます)。あまりにも多くのサービスが存在しますが、我々ユーザーからみた時の生成AI活用アプローチは汎用ツールの活用、オフィスツールのAI機能活用、特化型SaaSの活用、開発の4種類に大別されます。これらは取り組み難易度を反映した分類でもあります。また、今回の記事では企業におけるAI活用を意図しているのですが、フリーランス・個人での考え方は異なったものになります。

汎用ツールの活用


まずは汎用ツールの活用です。生成AIがここまで普及した一番の理由は自然言語を用いた対話型のサービスであることが上げられます。プロンプトと呼ばれる指示語を活用し、チャットの入力画面に質問、依頼事項を自然言語で書き込むことで、自動的に回答を取得することができます。ここに、LLM(大規模言語モデル)の機能を拡張する目的で、オリジナル情報を取得するRAG(Retrieval-augmented generation:検索拡張生成)、ウェブ検索、データ分析機能が付与されています。

汎用ツールとしては、ChatGPT、Geminiなどが挙げられます。用途を限定しないプレーンな機能が用意されているので、機能の使い分け、プロンプトの工夫、オリジナルデータの準備により様々なことができる一方で、それぞれの使いこなしが大事になってくるので、活かすも殺すもユーザーの実力次第ということになります。今回はこの汎用ツールのユースケースついてご紹介します。

オフィスツールのAI機能活用

次にオフィスツールのAI機能活用です。企業では、Microsoft365(Word、Excel、PowerPointなど)、Google Workspace(ドキュメント、スプレッドシート、スライドなど)を利用しているケースが多くあると思います。企業規模にもよりますが、複数の調査結果を参照すると、4〜6割程度の企業がこれらのツールを活用しているようです。オフィスツールへのAI搭載も進んでおり、MicrosoftではMicrosoft Copilot、GoogleではGemini for Google Workspaceを提供しています。

オフィスツールの普及率が物語るように、文書作成、表計算、資料作成は企業活動の多くの局面に存在しています。AI機能が付与されたオフィスツールを活用することでこれらの作業を効率化することができます。一方で、AIのツール連携は技術的難易度も高く、オフィスツールでのAI機能の品質はまだまだ現実の業務で求められる水準に達していない感触を持っています。

特化型SaaS

世の中には、CRM(顧客関係管理)、生産管理システムなど業界や業務に特化したSaaSがすでに存在しており、一機能としてAIが付与される動きも当然ながら顕著になってきています。例えば、CRMのAI機能では、顧客情報を検索したり、送付用のメールを書いたり、議事録を文字起こし・整理することができます。

SaaS自体が特定の業務に対して、一連の流れをサポートするように構築されていることが基本であるため、特定の業務に特化したアウトプットを生成しやすくできたり、既存の業務の流れを大きく変えることなく自然に取り入れることが特化型SaaS活用のメリットとなります。一方で、全ての業務に個別に特化型SaaSを活用しようとすると、SaaSツールで溢れかえり、ツールの使い分けも大変になります。

開発

ここまでが工業化された既製品を活用するアプローチでしたが、当然ながら自社・自業務の事情にマッチした仕組みを開発するアプローチもあります。大きくノーコード開発、コード開発があります。ノーコード開発では、開発用のSaaSを使う方法(Difyなど)や企業が利用しているクラウドプラットフォームが用意しているPaaS(Microsoft Azureなど)を使う方法があります。

開発と聞くとエンジニア以外の方にとって縁遠い印象を受けるかもしれませんが、生成AIを用いることでコードを生成することができたり、ノーコードツールの開発が進んでいたりと、エンジニアと非エンジニアの近接化は、近年のトレンドの一つではないかと思っており、多くの方にカスタマイズされた仕組みを開発する機会があるとも思っています。

開発には当然、軽い・重いはありますが、ノーコード開発が非常にリーズナブルになるとすると、むしろ上記のSaaS群を活用する前に、効果検証として簡易的なツールを開発してみるという手も出てくるかもしれません。

汎用ツールの一例

生成AIの機能については多岐にわたるので、ここでは、対話、検索、独自情報取得、データ分析という機能を持ったツールを汎用ツールとして定義します。大きくは言語モデル保有型、言語モデル活用型がありますがそれぞれの定義は後述します。また、いくつかサービス名をご紹介しますが、サービスが提供するプランによっても保有する機能が異なり、同じプラン内でもユーザーサイドでの機能選択が可能なので、イメージとしてご理解いただければと思います。

言語モデル提供型

ChatGPTやGeminiといった言葉はよく耳にすると思いますが、これらはサービス名です。言語モデルというのは単語や文章の出現確率を予測するシステムのことを指しており、生成AIサービスの頭脳のことを指しています。言語モデル提供型のサービスというのは、言語モデルをもつ組織が提供するツールのことを指します。

具体的には、OpenaIのChatGPTやGoogleのGemini、AnthropicのClaudeなどがあります。OpenAIはGPTという言語モデルを開発しており、GPT、GPT-2、GPT-3、GPT-4、GPT-4o、GPT-4o1といった順番でモデルをアップデートしています。つまりOpenAIはGPTという言語モデルを開発しつつ(頭脳)、ChatGPTというツール自体も開発していることになります(アプリケーション)。

言語モデル活用型

言語モデル活用型は言語モデル提供型の逆で、言語モデルを自社開発していない企業によるツールのことを指します。言語モデルはOpenAIのGPT、GoogleのGemini、AnthropicのClaudeといったクローズドソース(コードが公開されていない)、MetaのLlama、Mistral AIのMistralといったオープンソース(コードが公開されている)から選択し、サービス提供者ではユーザーが触るインターフェースを開発して提供します(アプリケーション)。

国内では、エクサウィザーズのExabase、Giveryの法人GAIなどが有名です。これらのサービス提供者は言語モデル自体を開発するのではなく、使い勝手の良いインターフェースと、大企業でも安心なセキュリティ環境を用意したサービスを開発して提供しています。

汎用ツールでできること18選

生成AIの汎用ツールを用いてできることについて、イメージも持っていただくために、実際入力画面をお見せする形で紹介していきます。タスクを抽出する上で、可能な限り日々の業務を細分化することを心がけました。なぜなら、汎用ツールでは複合的な処理は得意ではないためです。

例えば資料作成をしたい場合に、「資料を作ってくれ」とお願いした場合に大きく期待値を下回ってしまいます。人が実施する場合も同じですが、必要情報のインプット、情報整理、企画出し、ストーリー化と分解して進めることが推奨されます。こちらで紹介したものはかなり粒の細かい単位なので、これらを習得し、組み合わせることで、より抽象度の高い業務にも生成AIを適用できると思います。

情報の取得ウェブ検索、ドキュメント理解、ブレスト
情報の処理要約、翻訳、再構成、表の作成
文章の生成ドラフト作成、誤字脱字チェック、文体の変更
データの処理数式処理、データ分析、グラフ作成、グラフ編集、データ形式の変更
コードの処理コード理解、コード生成、デバッグ

ウェブ検索

何か検索をしたい時にはGoogleやYahooでキーワードを入力して検索して、表示されたウェブサイトから情報を取得することが普通ですが、生成AIでは適当に入力した表現をもとに、ウェブを検索し、直接知りたい情報を返してくれます。市場調査の取っ掛かりとして複数のソースから情報をまとめる際などに活用することができます。

ウェブ検索:AI技術市場を調査
AI技術市場を調査

ドキュメント理解

PDF、Word、Excel、Powerpointなどの文書ファイルの内容を読み込むこともできます。ボリュームの多い文章を個別に読み込むのは大変なので、目次を抽出したり、要約を得るような使い方ができます。

経産省&総務省「AI事業者ガイドライン」を読み込み
経産省&総務省「AI事業者ガイドライン」を読み込み

ブレスト

企画を考え始める時や、凝り固まった企画を発散させるときには壁打ち相手を探すこともよくあると思いますが、これからは生成AIが壁打ち相手になります。ビジネスアイデア、商品のネーミング・キャッチコピーからお悩み相談まで、行き詰まった時に一歩でも前に進むためのきっかけを与えてくれます。

AIを利用したスマーフとデバイスのアイデアをブレスト
AIを利用したスマーフとデバイスのアイデアをブレスト

要約

長文の報告書、記事の要約を依頼することもできます。先ほどのように参照元のファイルを添付する方法もありますし、原文を指示文の中に入れ込むこともできます。

OpenAI o1-previewのプレスリリースの要約(入力)
OpenAI o1-previewのプレスリリースの要約(入力)
OpenAI o1-previewのプレスリリースの要約(出力)
OpenAI o1-previewのプレスリリースの要約(出力)

翻訳

自然言語モデルの本質的な機能はパターン認識による言語の変換だと思っています。翻訳といった場合には日本語と英語のような自然言語間の翻訳が想起されますが、日本語と日本語間の表現の翻訳、日本語とプログラミング言語間の翻訳も可能です。

日本語を中国語とアラビア語に翻訳
日本語を中国語とアラビア語に翻訳

再構成

世の中には様々な形式の文章があると思いますが、文章を理解する上でのハードルには、表現の難しさもありますが、構成がかなり影響していると思います。逆に、よりよく意図を伝えるために起承転結やフレームワークといった情報整理の枠組みが存在しています。生成AIは所与の文章を任意のルールでもって再構成することで、インプット、アウトプット両面で意思疎通を助けてくれます。

OpenAI o1-previewのプレスリリースを再構成
OpenAI o1-previewのプレスリリースを再構成

表の作成

視認性を向上し、情報理解を助ける方法として表形式での出力も活用できます。コピーアンドペーストでExcelやスプレッドシートに貼り付けることもできますし、ChatGPTであれば、Excel、CSVといったファイル形式でダウンロードすることもできます。

生成AIモデルの情報を表形式に整理
生成AIモデルの情報を表形式に整理

ドラフト作成

ドラフト作成は、契約書(秘密保持契約、業務委託契約など)、メール文面などに活用することができます。どちらかというと正解が存在し、アレンジに時間のかからない文書に向いています。生成AIの利用ケースとしてメール文面のドラフトが挙げられますが、背景理解の必要な文章の返信メールなどは正解が一意に定まらず、アレンジに時間がかかるので向かないでしょう。会食の御礼や年休取得のいわゆるテンプレメールの方が相性がいいです。

飲み会欠席メールのドラフト作成
飲み会欠席メールのドラフト作成

誤字脱字チェック

誤字脱字チェックは2つの意味で困難な作業です。1つ目は当然ながらチェックする側が人間の場合、集中力・注意力に限界があるため。2つ目は誤字脱字といってもスペルミス、表記揺れなどの形式的なものから、表現のわかりやすさ、事実との整合のような本質的なものまで、対象とする領域が広いためです。完全ではありませんが、初期的なチェックとしては生成AIは大いに役立ちます。こちらの記事で誤字脱字の指示文について深掘りしていますので、ご覧ください。

例文の誤字脱字をチェック
例文の誤字脱字をチェック

文体の変更

古文や法律の条文、論文など一般人からすると表現が古風であったり、厳格であることからとっつきにく文章がありますが、生成AIを用いてより理解できる表現に変換することで、様々な文体に親しみを持って接することができるようになります。例ではかなりぶっ飛んだものを紹介していますが、より実用的には、ビジネス文書を作成する上で、フォーマル、カジュアルのようなトーンの調整する使い方もあります。

1890年第1回帝国議会貴族院 本会議の議事録を文体変更(入力)
1890年第1回帝国議会貴族院 本会議の議事録を文体変更(入力)
1890年第1回帝国議会貴族院 本会議の議事録を文体変更(出力)
1890年第1回帝国議会貴族院 本会議の議事録を文体変更(出力)

参考:1890年第1回帝国議会貴族院 本会議の議事録

数式処理

これまで定量データを分析する際は、Excelを開き、関数を用いて定量情報を計算し、傾向や背景情報に対する示唆を取得していました。生成AIを用いることで、データ処理の方法を考えたり、適切な関数を検討・選定することなく、四則演算といった簡単な処理から高度な統計処理まで、任せることができるようになります。

令和3年経済センサス活動調査を追加計算
令和3年経済センサス活動調査を追加計算

参考:令和3年経済センサス活動調査

データ分析

データの傾向や変化点の背景、今後の見通しといったデータの分析についてもこれまでは人間の経験と勘に頼ってきました。生成AIを用いることでもそうした人間が担ってきた分析を一定の網羅性と品質で対応することができます。事業の業績、マーケティング施策、市場調査の結果から従業員満足度調査に至るまで多岐にわたるデータの分析を生成AIで代替することができます。

令和3年経済センサス活動調査を分析
令和3年経済センサス活動調査を分析

グラフ作成

生成AIを使えば自然言語ベースの指示でグラフを作成することもできます。なお、、グラフ上で日本語を出力させるために、Google Font(URL)などのフォント情報を入力してあげることが必要です(そうでないと文字化けしてしまいます)。

令和3年経済センサス活動調査をグラフ化
令和3年経済センサス活動調査をグラフ化

グラフ編集

グラフにも折れ線、棒グラフ、円グラフなど多くの種類がありますし、ラベルの位置、サイズ、色などのトンマナもこだわればこだわるほど、質の高いデータ情報にすることができます。編集の方向性については人が指示を出す必要がありますが、一度作成したグラフを別の形式へ編集することもできます。

令和3年経済センサス活動調査をグラフ編集

データ形式の変更

作成したデータを異なるデータ形式に変換することも可能です。例えばExcelやスプレッドシートなどで作業したデータをアプリケーションにインプットするためにCSV形式にしたり、JSON形式にするようなケースが考えられます。これまでも専用の変換ツールはあったものの、対話形式で気軽に依頼ができる点は評価できると思います。

ファイル形式をxlsxからcsv/jsonへ変更
ファイル形式をxlsxからcsv/jsonへ変更

コード理解

上段で、生成AIはあらゆる言語の翻訳ができると書きました。プログラムやコードという分野はエンジニアの専売特許という印象が先行していましたが、自然言語とコードの橋渡しができたことにより、コードは非エンジニアにとってもより身近なものとなっています。生成AIを使うことで、無味乾燥にみえるコード群の意味合いの説明を受けることもできますし、より簡単な表現で補足してもらうこともできます。

Pythonを用いた線形回帰分析のコード理解(入力)
Pythonを用いた線形回帰分析のコード理解(入力)
Pythonを用いた線形回帰分析のコード理解(出力)
Pythonを用いた線形回帰分析のコード理解(出力)

コード生成

コードの生成も可能です。非エンジニアであれば、エクセルやスプレッドシートのVBAなどにチャレンジしてみるのも良いかもしれません。

パン屋さんのウェブサイトをコーディング
パン屋さんのウェブサイトをコーディング

デバッグ

エンジニアは多くの時間をデバッグ(コードエラーの原因究明と対策)に充てており、雑な投げ方でも何かしら原因と対策を返してくれるので、初心者のエンジニアにとってとても価値のある使い方になります。素人でも複数回のやり取りを通して異なる対策を得ることができれば、エラーを乗り越えることもできますが、そうでないことも多々あるので、デバッグが必要な複雑なコーディング領域はまだエンジニアの知見が必要となる領域であるとも言えます。

Pythonのエラーをデバッグ
Pythonのエラーをデバッグ

最後に

企業における生成AI活用のシーンではあまりにも多くのアプローチやツールがあり、何から手をつければ良いのか、何が効果的なのかについては、技術の早すぎる流れもあり、意見の収束は見通せません。一方で今回ご紹介した汎用ツールは非常に企業にとっても、個人にとってもハードルの低いアプローチであり、組織に馴染ませていくという観点では優先度が高いのではないかと思っています。

今回の記事では、汎用ツールの基本的な機能を用いて、現実的にできることにフォーカスして事例を交えて紹介してまいりました。どれも日常業務の基礎にあたる動きだと思いますので、試しながら、実際の効果を評価していただけると良いと思います。

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執筆者

慶應義塾大学卒業後、総合化学メーカーを経てデロイトトーマツコンサルティングに在籍。新規事業立ち上げ、M&A、経営管理、業務改善などのプロジェクトに関与。マーケティング企業を経て、株式会社ProFabを設立。ProFabでは経営コンサルティングと生成導入支援事業を運営。

TechTechでは、技術、ビジネス、サービス、規制に関する最新ニュースと、各種ツールの実務的な活用方法について、初心者でも理解できる明瞭な発信を心掛ける。日本ディープラーニング協会の実施するG検定資格を保有。

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