医療AIとは?医療でAIを活用するメリット・デメリットと注意点

医療AIとは

医療AIとは、人工知能の技術を医療分野に応用し、診断支援や病状分析、治療の効率化を支えるシステムです。1950年代から研究が進んできたAIは、機械学習や深層学習といった技術の発展とともに飛躍的に成長し、特に医療分野では画像診断や患者カルテの解析などで多くの実績を上げています。

AIによって医療現場では患者の異常を早期に発見し、医師の診断を補助する仕組みが広がりつつありますが、最終的な判断は医師が担い、AIはあくまで診療支援ツールとして活用されています。AIが進化することで医師不足の解消や医療ミスの防止といった課題への対応が進み、今後は自宅療養の支援や遠隔医療といった分野でもさらなる展開が期待されています。

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目次

医療AIとは

AIとは、「Artificial Intelligence(人工知能)」の略で、1950年代から研究・開発が進められてきた技術です。機械学習や深層学習(ディープラーニング)の進化に加え、ビッグデータ解析が発展したことで、AIは飛躍的に成長しました。医療分野では、患者のカルテ解析や疾患の診断支援といった実証実験が進み、2016年には日本国内でAIを活用した白血病患者の診断がわずか10分で達成された実績もあります。今後、AIを活用した診断や治療支援が実現すると、医療現場の人材不足や医療費の増加といった課題の解決に貢献する可能性があります。

医療AIは診断支援や病状分析だけでなく、日常生活での健康管理の支援にも活用されています。医療分野でのAI導入は、特に画像診断支援で進んでおり、医療技術の発展に伴い増加する医療画像を効率的に処理し、医師の負担を軽減するための役割を担っています。たとえば、厚生労働省が重点領域として挙げるゲノム医療、画像診断支援、診断・治療支援、医薬品開発、介護・認知症、手術支援などでAIの活用が進められています。

画像診断支援ではAIが医師より先に画像を分析して役割分担を図り、医師が難しい症例に集中できる仕組みが構築されています。医師の診断をダブルチェックする機能も提供され、重大な見逃しを減らすためのサポートを行ってくれます。また、リアルタイムで医師とAIが協働するシステムも開発されており、AIが医師の診断をリアルタイムで補助することで、診断精度の向上が期待されています。

すでに国内で消化器内視鏡分野などでの活用が進んでおり、多くの病院で補助診断システムが導入されています。AIによる画像診断支援は、データの収集がしやすい分野で研究開発が加速しており、質の高いデータの蓄積が精度向上に貢献しています。ただし、医療全体で見るとAIの実用化は一部に限られており、今後さらなる発展が期待されています。画像診断補助システムの保険適用も始まり、医療AIへの社会的な期待が高まっています。今後は、健康診断などの検査でもAIによる補助診断の導入が進むと考えられます。

一方で、医療分野におけるAIには課題も存在します。AIに高品質な教師データを提供する必要があり、特に医療データでは信頼性が求められます。また、データの正確なアノテーション(ラベリング)も重要で、医師の役割が不可欠ですが、AIによる医師の負担軽減を目的としつつも、アノテーション作業で医師の負担が増加する懸念もあります。AIが学習したデータを基に判断する性質上、未知の病気には対応できないリスクもあり、AIの誤診や失敗への社会的な受容も重要な課題です。

厚生労働省は医療AIの成果として、全国どこでも最先端の医療を受けられる環境の整備や医療従事者の負担軽減、さらに新しい診断・治療方法の開発が期待されると述べています。医療や介護を受ける人々だけでなく、医療従事者の業務負担を軽減することで、生活の質(QOL)の向上にも貢献すると考えられています。

参考:医療におけるAIの普及とその影響について

参考:保健医療分野におけるAI開発の方向性について

医療AIを活用するメリット

医療業務の効率化

AIの導入は受付業務やレセプト作成(診療報酬明細書)といった事務作業においても効率化を実現します。AIシステムはデータの自動入力と処理を行い、必要な情報を迅速に出力できます。煩雑なルールに基づく医療事務の自動化により、ヒューマンエラーの減少が期待されます。AIが診療報酬明細書の作成業務を担うことで作業時間と人件費の削減に貢献し、事務職員の負担も軽減されます。患者データ管理の効率化や月末処理の簡素化も実現し、人手不足の医療現場を支援する役割を果たします。

診断の精度向上

AIは膨大な患者データを収集・分類・分析し、診断の精度を高める役割を担います。医師が膨大なデータを分析するには時間がかかりますが、AIなら短時間で高精度な診断を提供できます。AIと医師がダブルチェックを行うことで見逃しのリスクが低減され、最適な治療法を提案するなど、医療の質と精度が向上します。

医療過誤の防止

AIの高い精度を活かすことで重要な症状の見逃しや分析ミスが減少し、医療過誤の防止に貢献します。2024年から施行される医師の労働時間規制に対応し、AIの導入がヒューマンエラーによる医療ミスを減少させると期待されています。AIは豊富な医学データをもとに、薬剤の適切な投与量や相互作用を含む情報を提供し、医師の判断をサポートします。

地域格差の是正

地方では医師不足が問題となっていますが、AIを活用することで遠隔地でも診療データを共有し診断支援が可能になります。AIが診断を補助することで少人数で多くの診療が行えるようになり、地域格差の是正に役立ちます。遠隔診療にAIを活用することで専門的な診断が提供され、医療の公平性が向上します。

データの収集管理

AIシステムを活用することでカルテなど膨大な医療データの収集と管理が容易になり、必要な情報への迅速なアクセスが可能です。患者の治療歴や症状に基づいた迅速な治療提案や予測が可能となり、医療現場での業務効率化が促進されます。

医療AI活用のデメリットと注意点

医者の判断が必要

AIが高精度な診断を提供できるとはいえ、すべての業務をAIに任せることは適切ではありません。AIが未学習の症例や難症例に対応できない場合には誤診のリスクが高まります。AIは医療支援ツールとして人間と協力して活用するのが望ましく、最終的な判断は医師や看護師といった専門知識を持つ人が行う必要があります。

責任の所在が不明確

AIを用いた医療においても診療の主体は医師であり、最終的な判断責任を負うのは医師です。AIはあくまで診療の補助ツールとして情報提供を行う役割に留まります。現在の法的枠組みでも、AIが医師の役割を代行することは認められていません。また、AIシステムは完全ではないため誤作動による誤診のリスクも存在します。AIが誤った判断をした場合においても責任の所在は曖昧にされず、医師が最終責任を担う可能性があります。

膨大なデータが必要

AIが高精度な診断を行うには大量かつ質の高い症例データの学習が不可欠です。しかし、症例データには個人情報が含まれるため、取り扱いには細心の注意が必要です。データが不十分な病状ではAIの診断精度に課題が残ります。また、AIの学習には患者の診療履歴や健康データが活用されるため、データのプライバシーとセキュリティを確保することが不可欠です。

ブラックボックス問題

AIはデータを学習する過程で結果が変動するため、成果が常に安定しているわけではありません。特に深層学習を用いる医療AIは、ブラックボックス問題を抱えており、診断結果がどのように導かれたのかが説明しにくい面があります。

医療AIに対する信頼性

AIの診断結果はアルゴリズムや学習データに依存するため、トレーニングデータが不十分な場合、診断結果にエラーが生じる可能性があります。また、ブラックボックス性が影響し、診断の根拠が不透明なままでは医療現場での信頼性が損なわれる可能性もあります。信頼性を確保するためには、適切なデータによる学習と定期的な監視が重要です。

医療現場におけるAIの活用例

AI画像診断

AI画像診断は、異常検知や画像認識技術を活用して医療画像データを解析し、患者の病変や異常を早期に発見する支援を行います。例えば、乳がんの早期検出や脳卒中の診断支援にAIが導入されており、人工ニューラルネットワークを利用した深層学習が多くの場面で活用されています。AIの高度な画像判別機能により、医師は複雑な症例に注力でき、AIがダブルチェックの役割を果たすことで見逃しのリスクが減少します。

AIオンライン診断

AIによるオンライン診断システムは病名予測や近隣の病院紹介だけでなく、オンライン診療や処方せんの配送も含めたサービスを提供します。感染症流行時や遠隔地の患者にとって医療と密接に繋がりながら健康情報にアクセスできる利便性が増しています。

AI処方

患者ごとに異なる体重や体調、血圧などに基づいてAIが処方の適切な調整を行います。医師の負担軽減とともに、個々の患者に適した医薬品の提供を支援します。

医薬品開発

AIは医薬品の開発プロセスにおいて、大量のデータ解析や予測モデルによる薬品候補の評価を高速で行い、開発期間の短縮に貢献します。AI創薬は膨大な研究データを活用して効率的な創薬プロセスを実現し、医療費削減や新たな治療法の開発を促進します。

カルテの解析

AIを用いてカルテや問診内容を解析することで患者の病歴や病状情報を抽出し、医師の診療をサポートすることにより医師や看護師は患者情報を効率的に把握でき、診療精度が向上します。

診療器具へのAI搭載

AIが医療器具に組み込まれることで注射・採血ロボットやスマートウォッチが患者の異常を検知し、診断の精度を向上させます。心電図モニターにAIを組み込むことで、心房細動の早期発見などが可能になり、患者の負担軽減に役立ちます。

ゲノム医療

ゲノム情報とAIを組み合わせたゲノム医療はがんや遺伝子変異の特定、個別の治療方針の検討に役立ちます。AIによるゲノムデータ解析により、患者の遺伝的リスクを特定し、早期の予防措置が取れるようになります。

ロボットによる手術

AIロボットによる手術支援は、外科医の技術を補助し、出血量を減らすなど、患者への負担を軽減します。手技の継承にもAIロボットが活用され、外科医不足の課題に対応しています。

入院患者の異常事態の察知

入院患者の転倒などの異常をAIが検知し、看護師の負担軽減と緊急対応を支援します。ナースコールができない状況を把握するなど、AIが医療機関の危機管理に寄与します。

医療AI活用の展望

今後、医療現場でのAIの活用はさらに進展していきます。現在でも少量の血液からがんの可能性を判定するシステムや患者の義歯の自動設計、歯の色調を再現する色判定システムなどの研究開発が進行中です。将来的には手術中に医師や看護師をアシストするAIの普及や通信技術の向上により、AIが遠隔でロボットを操作する治療の実現も期待されています。

医療におけるAIは5Gや3Dプリンターといった既存のテクノロジーと結びつき、飛躍的な進化を遂げています。AIの導入は医療現場の人手不足を補い、医療ミスの防止にも貢献し、自宅療養の支援など、さまざまな展望が広がっています。しかし、AIによる診療の代替にはまだリスクがあり、膨大な医療データを扱う際のセキュリティ対策も不可欠です。AI活用のメリットと課題を理解し、適切な方法で導入を進めることが重要です。

AIの開発は世界中で急速に進んでおり、医療分野も多様な要求に対応しています。AIを医療現場に実装するためには技術進展に伴う課題を継続的に把握し、最適な活用法を模索する必要があります。AIは医師の仕事を代替するものではなく、診療支援ツールであり、医師の主体性は今後も変わりません。AIに対する誤解や過度な期待を排し、正確な理解を持つことが医療従事者に求められます。

最後に

将来、医療AIの可能性はさらに広がり、精度の向上や新たなアプリケーションの開発により治療の質の向上、早期発見、遠隔治療の推進が期待されています。しかし、医療AIがどれだけ高度化しても、治療の最終的な決定権は医師にあります。医療AIは医療スタッフの効率を高める支援ツールであることを念頭に置いておく必要があります。

医療AIは将来的には医療現場で当たり前の存在になると考えられます。医療AIが複数の診療領域や組織をつなぐことで汎用性の高い技術として活用され、医師の負担軽減に寄与することが期待されています。理想的には教科書を参照するかのように常に手元で使用されるAIとなり、医療現場の効率向上を支える存在となることが目指されています。

現在、医療AIの仲間を増やし、開発したソフトウェアを医療機関や学会で活用してもらう試みが始まっています。使用された上での問題点や追加機能のリクエストをフィードバックとして得て、より理想的な医療AIの実現を目指します。医療AIの発展には、医学的アプローチと工学的アプローチを融合させるとともに、産業界や医療現場、研究者が連携する場が不可欠です。

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執筆者

慶應義塾大学卒業後、総合化学メーカーを経てデロイトトーマツコンサルティングに在籍。新規事業立ち上げ、M&A、経営管理、業務改善などのプロジェクトに関与。マーケティング企業を経て、株式会社ProFabを設立。ProFabでは経営コンサルティングと生成導入支援事業を運営。

TechTechでは、技術、ビジネス、サービス、規制に関する最新ニュースと、各種ツールの実務的な活用方法について、初心者でも理解できる明瞭な発信を心掛ける。日本ディープラーニング協会の実施するG検定資格を保有。

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