生成AIガイドラインとは?記載すべき内容と作り方・各社の事例

生成AIガイドラインとは、生成AIを安全かつ効果的に利用するための行動基準をまとめたものです。企業や自治体、教育機関などで導入が進む中、情報漏洩や著作権侵害といったリスクへの対策が求められています。

ガイドラインを策定することで、社内での運用ルールを明確にし、活用範囲や禁止事項、確認プロセスなどを共有できます。また、利用者ごとのリテラシー格差を埋め、適切な利用を促進するという役割も果たします。近年は社会的責任や倫理面での配慮も不可欠となっており、信頼性やブランドの維持にもつながるため、ガイドラインの整備と更新は今後ますます重要になっています。

企業版生成AI導入アプローチ
目次

生成AIガイドラインとは

生成AIガイドラインとは、生成AIを安全かつ適切に活用するために、国や自治体、企業が定める指針を指します。生成AIの活用が広がる一方で、個人情報の漏洩や著作権侵害、利用規約違反といったリスクが常に存在するため、このようなリスクを防ぐ目的で整備されています。

近年は各国で法整備も進んでおり、生成AIの利用に対する社会的な関心も高まっています。また、生成AIのサービスや機能は日々進化しているため、ガイドラインは一度策定すれば終わりではなく、継続的に見直しや更新を行うことが求められます。

こうした背景を踏まえ、生成AIガイドラインを策定する主な目的は次の3点に集約されます。

  • 生成AIの導入を円滑に進める
  • 利用に伴うリスクを軽減する
  • 効果的な活用を実現する

そのため、生成AIの導入を検討している場合は、自社の業務内容や利用目的に即したガイドラインを整備することが不可欠です。

生成AIのガイドラインが重要な理由

生成AIに関する法整備はまだ十分とはいえず、その中でガイドラインを作成することは非常に重要です。利用者への適切な指針を示すことにより、安全性や効率性を確保し、企業としての信頼やブランドを守ることにもつながります。ここでは、生成AIガイドラインの重要性について、主にマニュアルの役割や悪用防止、法的リスク回避といった観点から解説します。

ユーザーにとっての行動指針になる

生成AIガイドラインは、ユーザーにとって操作方法や判断基準を明示するマニュアルとしての役割を果たします。生成AIはサービスによって使い方が異なり、ユーザーのリテラシーにも差があります。そのため、ガイドラインがなければ理解のばらつきが生まれ、社内での活用が浸透しにくくなります。

あらかじめ利用方法や注意点を明記することで、どのようにサービスを活用すればよいのかという共通認識を持たせることができ、知識やスキルの差を補うことが可能になります。

誤用・悪用のリスクを防ぐ

生成AIは、過去のデータや入力された情報をもとに新たなアウトプットを生成します。このとき、機密情報や個人情報を誤って入力してしまうと、情報漏洩につながるリスクがあります。また、出力されたデータが著作権を侵害したり、利用規約に反したりする可能性もあります。

こうしたトラブルを防ぐためにも、入力すべきでない情報の例や、過去に問題となった事例などを明記することが重要です。具体的な注意点を示すことで、ユーザーの意識を高める効果が期待できます。

法的リスクの回避とコンプライアンスの確保

生成AIの活用が進む中で、個人情報保護法や著作権法などの基本的な法令だけでなく、業界ごとに適用される法律や規制への対応も求められます。例えば、広告業界では景品表示法、金融業界では金融商品取引法などが該当します。

ガイドラインを策定し、こうした法的要件に対応した利用方法を明確にしておけば、トラブルを未然に防ぎ、組織としてのコンプライアンスを維持できます。

業務効率と安全性を両立できる

生成AIの導入目的は業務の効率化だけでなく、安全性の確保にもあります。ガイドラインには、どの業務領域で使用を推奨するか、どのようなデータを扱うかといった判断基準を記載することが有効です。AIの出力結果をどのように検証するか、人の目による最終確認がどのタイミングで必要かといったプロセスも明文化することで、業務の効率と安全性を両立できます。

信用とブランドイメージの維持につながる

組織が生成AIをどう活用するかは、社外にも影響を及ぼします。適切なガイドラインのもとで一貫した対応を行い、成果や方針を社外に発信することで、企業の信頼性は高まります。

特に、倫理や公平性といった社会的価値に配慮した内容をガイドラインに含めることで、持続可能な技術活用を行う姿勢を示すことができ、ブランドイメージの強化にもつながります。

生成AIガイドラインに記載すべき内容

生成AIを業務で活用するうえで、ガイドラインには具体的なルールや対応方針を明記する必要があります。安全性・法令遵守・品質確保など多方面の観点から、必要な内容を整理しておくことで、リスクを抑えつつ効果的な運用が可能になります。

以下に、生成AIガイドラインに盛り込むべき代表的な項目を紹介します。

データ入力に関するルール

生成AIは、入力された情報をもとにアウトプットを生成します。そのため、入力内容に関する明確な制限を設けることが重要です。

  • 個人情報(氏名、住所、電話番号など)や機密情報の入力禁止
  • 著作権で保護された画像・文章の無断入力禁止
  • 入力が必要な場合の承認フローと責任者の明確化
  • 利用可能なAIツールの制限(社内認定済みのサービスに限定など)

このルールは情報漏洩や法的トラブルを防ぐうえで必須といえます。

生成物の管理と利用ルール

生成AIが出力したデータにも、管理と活用に関するルールが必要です。

  • 著作権の帰属と利用範囲の明示(社外公開の可否など)
  • 品質の確認手順とチェック体制(事実誤認、文脈の不整合、ブランドトーンの不一致など)
  • AIによる生成物であることの開示(必要に応じて利用ツールの明示)

生成物は、品質や権利の観点から企業の信用にも関わるため、扱いには十分な配慮が求められます。

利用時の注意と確認プロセス

AIの出力結果は誤っている場合があります。特に、業務で活用する際は次のような注意点を記載します。

  • 出力内容のファクトチェックを必須とする
  • 誤情報や偏った表現のリスクを認識し、最終判断は人が行う
  • 公式コンテンツとして使用する際は、複数人でのレビュー体制を整備する

誤った情報の公開は、信頼失墜や法的リスクにつながる恐れがあります。

教育と社内浸透の方針

ガイドラインの定着には、社員教育と継続的なトレーニングが不可欠です。

  • 対象別の教育方針(利用部門向け/全社向け)
  • AIの特性、活用方法、倫理・法務的な観点を学ぶ研修
  • 外部セミナーや専門機関との連携の推奨

内容を理解しないまま運用されることが最も危険です。実践的な教育が重要になります。

誤作動・不適切な出力への対応

AIが誤った出力を行った場合の対応手順も、あらかじめ整備しておく必要があります。

  • 誤作動発生時の修正・削除の手順
  • 原因調査と再発防止策の策定
  • 社外への説明責任や必要な報告手順の明記

問題発生時に備えた事前の備えが、企業としての信頼維持につながります。

セキュリティと情報管理

生成AIの利用にはセキュリティ上の配慮も欠かせません。

  • アクセス権限の制御と操作ログの取得
  • 二要素認証や暗号化などの技術的対策
  • 情報漏洩時の初動対応・関係者通知・原因究明のフロー整備

外部からの不正アクセスや内部からの情報流出を防ぐため、運用面と技術面の両方で対策が必要です。

活用事例の共有

自社・他社の活用事例をガイドラインに盛り込むことで、利用イメージの共有と活用の幅を広げることができます。

  • 成功事例だけでなく、失敗や学びのあった事例も含める
  • 部門ごとの利用例を掲載し、現場が参考にしやすい構成にする

事例を通じて、社員が前向きに生成AIを活用するきっかけを作ることができます。

生成AIガイドラインの作り方

生成AIガイドラインの策定は、一度きりの作業ではなく、自社の目的や業務内容に応じて段階的に進めていく必要があります。まずは他社の事例やひな形を参考にしながら、自社業務への影響やリスクを整理し、必要なルールを明文化していきます。

1.他社の実例を参考にする

最初のステップとして、他社や自治体が公開している生成AIガイドラインの実例を確認します。国内でも多くの企業や団体が独自のガイドラインを公開しており、共通して重視されている要素を把握することが可能です。

データの取り扱いや著作権への配慮、透明性の確保といったポイントは特に多くのガイドラインに共通して見られます。同業界の実例を確認すれば、自社特有の注意点や法的要件も見えてきます。

2.自社業務における生成AIの用途と影響を整理する

自社の業務において生成AIがどのように使われるかを明確にします。たとえば、マーケティング部門でのコンテンツ作成、開発部門でのコード生成など、具体的な活用シーンごとにリスクや課題を洗い出します。

同時に、業務プロセスの変更や必要となるスキルの変化といった影響も検討し、実態に即したガイドラインへとつなげていきます。

3.法的リスク回避や信用維持のための方針を検討する

生成AIの活用には法的・社会的なリスクが常に伴います。著作権法や個人情報保護法をはじめとした関連法規に基づき、適切な運用ルールを明示することが必要です。

また、生成物にAIが関与していることの開示ルールや判断プロセスの説明手順など、透明性を確保する方法を定めます。企業のイメージを損なわないよう、使用目的や制限も明確にします。

4.含めるべき基本要素を整理する

生成AIガイドラインには、次のような内容を含める必要があります。

  1. 利用可能な生成AIの名称
  2. 入力してよい情報の範囲
  3. 利用申請や承認の手続き
  4. 生成物を使う際のルール
  5. 社内研修の実施方針
  6. 誤作動時の対応手順
  7. 運用体制と責任者の明確化
  8. セキュリティインシデントへの対応フロー
  9. 自社や他社の活用事例の共有

企業によって業務内容や情報の扱い方は異なるため、上記を基本としつつ、自社の実情に合わせて内容をカスタマイズします。

5.ひな型を活用してカスタマイズする

一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)は、企業が生成AIを導入する際に役立つガイドラインのひな形を公開しています。このひな形を活用すれば、ゼロから作成するよりも効率的に進めることができます。JDLAのひな形はWord形式でダウンロード可能で、そのまま編集できる構成になっており、カスタマイズしやすい内容です。

参照リンク:https://www.jdla.org/document/#ai-guideline

6.自社に合わせた内容に調整する

ひな形を基に自社の業務内容や使用目的に応じたカスタマイズを行います。この際、生成AIガイドラインの作成を主導する部署だけでなく、実際に生成AIを利用する部門からの意見も反映させることが大切です。ITリテラシーには個人差があるため、策定後も研修やマニュアルの整備を通じて、ガイドラインの内容を理解しやすくし、社内全体への浸透を図ります。

7.実務に即した活用方法を記載する

実際に生成AIをどの業務でどのように活用するかを具体的に記載します。抽象的な表現ではなく、部門ごとの活用シーンを明示することで、ガイドラインの実効性が高まります。

ドラフトを完成させたら、関係部署に共有してフィードバックを収集します。現場の視点を取り入れることで、実際の業務に即した内容へと改善できます。

8.周知と継続的なサポートを行う

ガイドラインは作成して終わりではなく、継続的に周知とサポートを行うことが重要です。社内研修やQ&A対応、定期的な見直しなどを通じて、日々変化するAI技術に柔軟に対応できる体制を維持します。

生成AIガイドラインの事例

国の事例

文部科学省教育現場での活用に特化。児童生徒のITリテラシー育成や校務での活用にも言及。初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン
デジタル庁行政向けに特化。システム導入時の具体的なリスクと対応策を工程別に整理。テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック
総務省AI-Readyな社会実現に向け、利活用の原則と留意すべきタイミングを提示。政策立案や行政サービスでのAI活用を想定。AI利活用ガイドライン
経済産業省総務省・経産省が共同策定。生成AIの普及を受け、既存指針を統合・整理。全AI事業者に向けた実践的な運用基準を提示。AI事業者ガイドライン

地方自治体の事例

東京都全職員約5万人に向けた活用環境を整備。活用事例とルールを示し、行政サービスの質向上を目指す。文章生成AI利活用ガイドライン
神奈川県知事部局・企業庁・議会局・教育委員会などの職員向け。対象生成AIは特定設定下のChatGPT。神奈川県生成 AI の利用ガイドライン
千葉県知事部局等の職員向け。県専用サービスとGeminiを用途に応じて使い分け。生成 AI の利用ガイドライン
愛知県職員向けに活用例や禁止事項を整理。入力条件や生成物利用時の注意点も明記。生成AIの利用に関するガイドライン
大阪市市職員と受託事業者向けに策定。独自のAIアシスタント「Oasis」を導入し、利用環境別のルールや活用事例も提示。大阪市生成AI利用ガイドライン

企業・団体の事例

日本ディープラーニング協会(JDLA)企業・自治体向けのひな形を提示。各組織が自らの目的に応じてカスタマイズ可能な汎用型ガイドライン。生成AIの利用ガイドライン
富士通富士通社員向け。5リスクとコード生成AIの留意点を整理。社外公開あり。Fujitsu生成AI利活用ガイドライン
サイバーエージェント適切な利活用を前提に策定。Azure OpenAIやGitHub Copilot導入を全社・事業別で推進。生成AIの利用ガイドライン

最後に

生成AIの導入は業務効率の向上だけでなく、リスク管理や組織の信頼性向上にも影響を与えます。そのためには具体的なガイドラインを設け、適切な利用ルールや教育体制、トラブル時の対応フローなどを整備することが不可欠です。

組織ごとの目的や業務特性に合わせてカスタマイズしたガイドラインを構築することで安全性と有用性を両立させることができます。また、他社事例やひな型の活用、現場との連携による実効性のある運用が求められます。生成AIの活用が広がる今、ガイドラインは単なるマニュアルではなく、組織全体での共通認識を支える基盤といえます。

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執筆者

慶應義塾大学卒業後、総合化学メーカーを経てデロイトトーマツコンサルティングに在籍。新規事業立ち上げ、M&A、経営管理、業務改善などのプロジェクトに関与。マーケティング企業を経て、株式会社ProFabを設立。ProFabでは経営コンサルティングと生成導入支援事業を運営。

TechTechでは、技術、ビジネス、サービス、規制に関する最新ニュースと、各種ツールの実務的な活用方法について、初心者でも理解できる明瞭な発信を心掛ける。日本ディープラーニング協会の実施するG検定資格を保有。

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