DeepSeekとは、中国のスタートアップが開発した大規模言語モデルで、自然な文章生成やプログラミング支援など多彩な機能を備えています。高性能でありながら圧倒的な低価格で提供されており、個人から企業まで利用の広がりを見せています。オープンソースであることも手伝って、開発者によるカスタマイズやサービスへの組み込みが進んでいます。
一方で、学習データの非公開や、中国国内のサーバー運用によるセキュリティ上の懸念も存在しており、利用にあたっては十分な理解と準備が必要です。競合する生成AIとの比較やAI業界への影響、社会的インパクトも大きく、技術と倫理の両面での配慮が求められる存在となっています。
DeepSeekとは
DeepSeekとは、中国のスタートアップ企業が開発した大規模言語モデル(LLM)で、文章生成、要約、翻訳、データ分析、コード生成など幅広い用途に対応する生成AIです。ChatGPTなどと同様、自然言語処理技術を用いており、中国語だけでなく多言語に対応しています。特に中国語処理の精度が高く、中国圏での活用が進んでいます。2023年に杭州で設立されたDeepSeek AIが開発しており、オープンソースとして公開されたことから、開発者や企業が自由にカスタマイズしやすい点も特徴です。
DeepSeekを開発したDeepSeek AIは、量的投資ファンド「幻方量化(High-Flyer Capital Management)」の支援を受けて設立されました。創業者の梁文鋒氏は、投資分野からAIへと軸足を移し、専門性の高いチームを編成。中国のトップ大学出身の研究者だけでなく、他分野の人材も積極的に登用し、多様な知識基盤の構築を進めています。
性能とコストの両立
DeepSeekは、OpenAIのo1と同等の精度を持ちながら、圧倒的に低価格で提供されています。例えば、APIの利用料金は100万トークンあたり、入力で0.55ドル、出力で2.19ドルと、o1と比較して約30分の1のコストで利用できます。個人向けには無料チャットアプリも提供されており、iOSではChatGPTを抜いてダウンロードランキング1位を記録しました。
高い性能はベンチマークにも表れており、2024年の数学テスト「AIME」では79.8%の正答率を達成。OpenAIのo1-1217と並ぶ結果を示しています。こうした実績と低コストの組み合わせにより、国内外の企業での導入も進んでおり、日本ではサイバーエージェントが日本語追加学習を施したモデルを公開するなど、応用範囲が広がっています。
採用技術と拡張性
DeepSeekの高性能を支えているのは、Mixture of Experts(MoE)やGRPO、知識蒸留といった先端技術です。MoEは複数の専門モデルの中から必要に応じて選択・活用する仕組みで、精度と処理効率を両立。GRPOは従来の強化学習を改良し、文脈に合った自然な文章生成を可能にします。知識蒸留は大規模モデルの知見を小型モデルに移す技術で、処理の軽量化と高速化を実現しています。
2024年に発表された「DeepSeek-V3」は6710億パラメータを備え、Metaの「Llama 3.1」の約1.6倍の規模を誇ります。さらに、画像・音声・コードなどに対応するマルチモーダル機能も備えており、教育、開発、クリエイティブ領域への応用も可能です。こうした技術と構成により、DeepSeekは高精度・低コスト・高拡張性を兼ね備えた実用的なAIとして注目を集めています。
DeepSeekのセキュリティ問題
DeepSeekには安全性や情報管理に関する課題が多く指摘されています。企業での利用にあたっては、機密情報を取り扱う部署での使用禁止、明確な利用制限の設定、ガイドライン整備、利用履歴の監査、承認フローの導入などが必要です。
国家情報法とプライバシーへの懸念
DeepSeekは中国のAI企業によって開発・提供されており、データが中国国内のサーバーに送信される可能性があります。同社のプライバシーポリシーでは、ユーザーデータが中華人民共和国の法制度(個人情報保護法、サイバーセキュリティ法、国家情報法など)の対象となることが明記されており、中国政府が法的根拠に基づいてユーザーデータへアクセスする可能性があると懸念されています。
こうした背景から、各国政府では以下のような対応が取られています。
- アメリカ:NASA、国防総省、海軍などで使用禁止
- イタリア:国家単位での利用禁止
- 韓国:国内アプリストアで配信停止
- 日本:デジタル庁が注意喚起を発出
また、DeepSeekの利用規約では、ユーザーの入力情報がAIの学習に利用されることが明記されており、現時点で学習を拒否する設定(オプトアウト機能)は存在しません。この仕様は、企業が機密情報を入力した場合の情報漏洩リスクを高める要因となっています。
アプリのセキュリティ脆弱性
DeepSeekのモバイルアプリには、以下のような技術的な脆弱性が指摘されています。
- iOSアプリにおいてApp Transport Security(ATS)が無効化されており、暗号化されていない状態でデータが送信されている
- ユーザー名やパスワードなどの認証情報が暗号化されずに保存されており、外部からの窃取リスクが存在する
上記の要因により、DeepSeekを業務で利用する場合は、情報セキュリティおよび法令遵守の観点から慎重な判断が求められます。
DeepSeekの使い方
DeepSeekは、Web、アプリ、API、Azureなど多様な手段で利用でき、個人から企業まで幅広い用途に対応します。
利用手段と導入方法
- Web版:インターネットブラウザから公式サイト(https://www.deepseek.com/)にアクセスし、Googleアカウントまたはメールアドレスでログインすればすぐに使用できます。スマートフォンやタブレットからのアクセスにも対応しており、アプリのインストールは不要です。
- アプリ版:iOSおよびAndroid向けに提供されており、スマートフォンやタブレットにインストール可能です。モバイルに最適化されたUIで、外出先からも快適に利用できます。
- API版:開発者向けに提供されるAPIを使えば、自社ソフトウェアやアプリにDeepSeekの機能を組み込むことができます。公式サイトでアカウント登録後にAPIキーを取得することで利用が開始されます。
- Azure版:Microsoft Azure上でも利用可能で、クラウド環境における大規模運用や複雑なAI処理に適しています。
主な機能と活用例
- テキスト生成:テーマとキーワードを指定することで、自然な文章を自動生成できます。ブログの下書き、広告コピー、プレゼン資料の構成作成などに活用でき、執筆時間の短縮に寄与します。
- データ分析:アンケート結果や口コミなどの大量テキストデータをアップロードし、感情分析やキーワード抽出、要約などを実施可能です。市場調査やカスタマーサポートの分類、社内資料の要約などに役立ちます。
- 翻訳・要約:多言語対応で、文脈に沿った自然な翻訳や要約を生成します。契約書の翻訳、論文の要約、字幕作成などに応用でき、国際的な情報活用が可能になります。
- プログラミング支援:コードの自動補完、バグ検出、SQLの最適化などが可能で、開発効率とコード品質の向上に寄与します。初心者の学習支援にも適しています。
DeepSeekとChatGPTの比較
DeepSeekは、中国発のスタートアップが開発したオープンソース型の生成AIであり、効率性と透明性を重視しています。一方、ChatGPTはアメリカのOpenAIが提供する商用AIであり、対話性能や多用途性に優れ、世界的に広く活用されています。それぞれの特性を比較し、主な違いを整理します。
参考:ChatGPTとは?ログインから使い方、活用方法まで解説
開発背景の違い
DeepSeek | ChatGPT | |
開発企業 | DeepSeek社(中国) | OpenAI(アメリカ) |
支援企業 | 幻方量化(中国の量的投資ファンド)など | Microsoft など |
目的 | 高性能なAIを低コストで効率的に開発・公開 | 高性能で多用途な商用AIを提供 |
特徴 | 少ない計算リソースでも高精度、特に数学・コードに強み | 会話性能・知識・コード処理などに優れ、汎用性が高い |
モデル公開度 | オープンソースでモデル構造や一部コードを公開 | 一部非公開 |
OpenAIは当初、非営利の立場で安全なAI開発を掲げていましたが、現在はMicrosoftとの提携を通じて商用展開を進めています。DeepSeekは中国の金融分野の知見をもとに、AI分野へと進出しました。
性能の違い
DeepSeek | ChatGPT | |
ベース技術 | MLAやMoEなど計算効率を重視 | TransformerベースのGPTシリーズ |
計算リソース | 低リソースで学習可能な構成 | 大量のGPUを使用 |
性能傾向 | 数学やコード処理に特化 | 対話や英語処理に強み |
ChatGPTは高度なGPU環境を活用し、対話や自然言語処理に優れています。DeepSeekは効率的なアルゴリズムを採用し、限られた資源でも精度を確保しています。
社会的インパクト
DeepSeek | ChatGPT | |
社会的影響 | DeepSeekショックでは株式市場にも影響 | 教育・ビジネス・行政など広く浸透 |
商用展開 | 研究用・オープンソース中心、今後の展開に注目 | 有料版ChatGPT Plus、API提供あり |
ChatGPTは世界中で幅広く導入されており、AIの社会実装の象徴となっています。DeepSeekは価格・性能の両面で注目され、特にアジア市場での導入が進んでいます。
利用環境の違い
DeepSeek | ChatGPT | |
言語対応 | 中国語に最適化 | 英語中心に多言語対応 |
学習データ | 中国語圏の情報に特化 | 英語圏を中心にグローバル対応 |
モデル構成 | オープンソースでカスタマイズ可能 | クローズドソースでAPI提供が主流 |
利用環境 | 自由に組み込み可能 | OpenAIのエコシステム上で運用 |
DeepSeekは特に中国語圏や中国市場を対象とする用途に適しており、自社サービスへの組み込みにも柔軟に対応できます。対してChatGPTは商用APIを中心とした運用で、統制されたエコシステム内で利用される傾向があります。
DeepSeekショックについて
DeepSeekショックとは、2025年1月に中国のAI企業DeepSeekが高性能かつ低コストの生成AIモデルを発表し、世界のテクノロジー業界と株式市場に大きな衝撃を与えた現象のことです。
特に、AI関連の半導体を供給するエヌビディアの株価が一時18%下落し、70兆円以上の時価総額が失われるなど、市場全体に大きな影響を及ぼしました。この下落は、単一企業としては史上最大の時価総額減少とされています。フィラデルフィア半導体株指数も10%近く下落し、AI技術の覇権をめぐる構図に変化の兆しが見え始めました。
低コスト・高性能モデルによる市場の動揺
DeepSeekは最先端の半導体を大量に使わずに、高性能な生成AIモデルをわずか約8億円の開発費で構築。従来、数百億円規模の投資が必要とされていた生成AIの開発において、圧倒的なコスト効率を示しました。この発表により、従来の大規模GPUリソースに依存するモデルの競争力に疑問が生じ、ChatGPTなど既存のプラットフォームにも見直しの動きが広がりました。また、iPhone向けアプリがApp Storeの無料ランキングでChatGPTを抜いて1位となるなど、一般消費者の関心も一気に高まりました。
AI業界の競争の激化
DeepSeekの技術は、軽量かつ高性能な構成と知識蒸留技術を基盤とし、企業や開発者にとって手の届く存在となりました。オープンソース化とAPI提供も相まって、スタートアップや中小企業でも高精度なAIを導入できる環境が整いつつあります。
この動きにより、既存の生成AI企業は技術革新とコスト競争の双方への対応を迫られ、サービス品質や価格設定の見直しを進めています。AI活用の裾野が広がる一方で、差別化や信頼性の確保といった新たな課題も浮上しています。
各業界に広がる実用面でのインパクト
DeepSeekの進化は、AI活用の対象領域を一気に拡大させ、以下のような分野で大きな変化をもたらしています。
- コンテンツ制作:ブログ記事や広告文の自動生成が精度・スピードともに向上し、ライター業務の負担軽減に寄与。
- データ分析:自然言語処理を活用した要約・抽出精度の向上により、インサイト発見が迅速化。
- プログラミング支援:コード補完やデバッグ支援機能が強化され、開発作業の効率が改善。
- カスタマーサポート:AIチャットボットの精度向上により、業務自動化が進展。
今後、DeepSeekの台頭はAI市場の構造を再編し、生成AIの民主化を加速させる存在として、さらに注目されることが予想されます。
DeepSeek利用時の注意
DeepSeekは高性能な生成AIである一方、利用にあたってはさまざまな注意点が存在します。特に企業や個人が業務に取り入れる際には、情報の正確性、法的リスク、倫理的配慮など、多角的な観点から慎重に判断する必要があります。
信頼性と正確性に関する課題
DeepSeekの学習データは公開されておらず、知的財産権や信頼性に関する懸念があります。また、DeepSeekがChatGPTを蒸留(知識を圧縮して移す技術)した可能性があるとの指摘もあり、商用利用においては法的リスクを伴う可能性もあります。利用前にはライセンスや規約の確認が欠かせません。
また、生成される内容の正確性にも限界があります。DeepSeekのニュースに関する回答の正確率は20%弱というデータもあり、誤情報や曖昧な内容を出力する可能性が高いとされています。特に、法律文書や医療関連など正確性が求められる分野では、専門家のレビューを必須とすべきです。AIはバイアスを含むコンテンツを生成する場合があり、倫理的な配慮も必要です。誤情報の拡散や偏見の助長を防ぐためには、出力内容を適切に監視・確認する体制が求められます。
プライバシーとデータ管理のリスク
DeepSeekは入力データを保持・学習に使用する可能性があり、個人情報や機密情報の入力には注意が必要です。利用規約によれば、アカウント削除後であっても、法令に基づき特定のデータを保持することや、違反行為に対する権利行使が記されています。
また、ユーザーデータは中国国内のサーバーに保存され、中国の国家情報法に基づいて政府に開示されるリスクもあります。この点は他国のAIサービスでも同様の規定がある場合がありますが、中国においては国家主導での情報取得義務が法律で明文化されており、特に注意が必要です。
利用目的と規約の確認
DeepSeekはオープンソースであり、多くの機能が無料で利用できますが、利用規約の記述は一部不明瞭で、特に商業利用における条件の確認が不可欠です。組織での導入を検討する際は、法務部門と連携し、ライセンスの適用範囲や禁止事項を確認したうえで導入判断を行うべきです。
最後に
DeepSeekは、その技術力と低コストを背景に急速な注目を集め、生成AI市場における競争環境を大きく変えつつあります。特に中国語圏での強みを活かしつつ、日本を含むアジア地域でも利用が広がっています。
一方で、データプライバシーや利用規約に関するリスク、アプリケーションのセキュリティ脆弱性など、導入前に確認すべき課題も少なくありません。信頼性や法的リスクを適切に管理しながら、DeepSeekの特性を活かすことが求められます。オープンソースの強みを活かした拡張性や効率性とともに、慎重な運用判断が重要です。今後の進化と社会的な受容のバランスを見極めながら、生成AIの新たな選択肢として向き合う姿勢が問われています。
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