ディープニューラルネットワーク(DNN)とは? 活用事例と残課題

DNNとは

ディープニューラルネットワーク(DNN)とは、脳の神経回路を模倣したニューラルネットワークをさらに発展させ、複数の層を使って高度な情報処理を行うディープラーニングの学習方法の1つです。従来のニューラルネットワークでは処理が難しかった複雑なタスク、例えば画像認識や自然言語処理などを高い精度で行うことが可能です。自動運転、医療、農業、金融など、さまざまな分野で活用されており、AI技術の進展に重要な役割を果たしていますが、大量のデータを必要とすることや結果の根拠が不明確であるといった課題も残っています。

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目次

ディープニューラルネットワーク(DNN)とは

ディープニューラルネットワーク(Deep Neural Network、DNN)とは、脳の神経回路を模倣したニューラルネットワークをさらに深い階層に適用したものであり、ディープラーニング(深層学習)の学習方法の1つです。

従来のニューラルネットワークは単純なネットワークを利用してタスクを解決することを目的としていました。通常は入力層、中間層、出力層で構成されており、簡単な構造の問題や基本的な問題を解決することはできますが、複雑な画像処理や自然言語処理のようなタスクをこなすことは困難です。複雑な課題に対しては複雑な隠し層構造を持つディープニューラルネットワークを使うことにより、モデルが問題を適切に理解し、精度の高い出力が可能になります。

ディープニューラルネットワークの活用例としては画像認識、音声認識、自然言語処理、レコメンデーションなどが挙げられ、自動運転や医療、農業など様々な分野でAIの発展に欠かせないものになっています。

畳み込みニューラルネットワークとの違い

ディープニューラルネットワーク(DNN)と畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、CNN)はよく比較されますが、DNNは多層構造を持つニューラルネットワークのこと指し、CNNはDNNの1種に区分されます。

大きな違いとして、CNNには畳み込み層やプーリング層が存在しており、これらの層で特徴量(物事の違いを判別するための特徴を数値化したもの)の抽出を繰り返し、最終的なデータ判別や意思決定をする点が挙げられます。CNNは特に画像認識の分野で強いのも特徴です。なお、畳み込みとはCNNにおける画像を抽出する作業のことです。

一般的な機械学習では、データを判別するためのモデル構築時に特徴量を開発する必要がありますが、DNNでは入力されたデータから自動的に判別に必要な特徴量を学習します。そのため、特徴量を開発する必要がなく、人間には見つけられないような特徴を見つけることが可能であり、機械学習よりも高い精度の学習能力と特徴量の抽出能力を備えています。

ディープニューラルネットワークの仕組み

ディープニューラルネットワークは、ニューラルネットワークとパーセプトロン(脳神経を模することによって人間と同じ認識能力を再現しようというアルゴリズム)の進化形といえます。ニューラルネットワークは、1943年に脳の神経回路をベースにしたモデルとして提唱され、1957年にパーセプトロンが考案されることで第一次AIブームを引き起こしました。近年では複数のパーセプトロンを組み合わせたものを総称してニューラルネットワークと呼ぶこともあります。

従来のニューラルネットワークは入力層・中間層・出力層の3層で構成され、中間層は1層のみでした。4層以上のネットワークでは問題が発生することが多かったのですが、ディープニューラルネットワークでは複数の中間層を持つことが可能となり、複雑な情報処理ができるようになりました。

ディープニューラルネットワークは入力層、複数の中間層、出力層で構成され、従来の1層のみの中間層に対し2層以上の中間層を持つことで、より高度な情報処理が可能です。各層は前の層から伝達された情報や過去のデータを基に精度の高い結果を導き出します。

例えば、画像に写った動物を判別するタスクでは入力層で画像を受け取り、次の層で色や形を認識し、さらに次の層で過去のデータと照合して類似する動物を探します。そして最終的な層で動物の種類を判別します。このプロセスにおいて、コンピュータが学習を行い、データを蓄積することで、ニューラルネットワークはますます精度の高い結果を出せるようになります。

ディープニューラルネットワークの活用事例

ディープニューラルネットワーク(DNN)は、さまざまな分野で活用されています。例えば、農業では、温度や湿度を考慮したセンサーや衛星からのデータを活用し、収穫量を最適化することに貢献しています。航空宇宙や防衛分野では、衛星から取得した画像を使って物体を識別したり、監視カメラを通じて不審な活動を検知し情報を収集しています。

自動車産業においては、交通標識や信号、他の車両、歩行者を検出するためのディープラーニングモデルを使用し、自律車両の開発を進めています。また、金融サービスでは、ディープラーニングを活用して将来の株式市場の価格を予測し、不正行為を高精度で検出するほか、顧客の信用度を分析してローン申請に迅速に対応するなど、取引や不正検出、パーソナライズされた顧客サービスを提供しています。

健康管理の分野では、放射線画像などを使って病気を診断したり、医療処置を個別化して、リスクの高い患者を特定するためにディープニューラルネットワークが利用されています。保険業界では、レポートや画像を使ったクレームや損害分析の自動化が進み、住宅保険におけるリスク予測や価格リスク分析が実現されています。

製造業では、個別の自動車製造業や石油・ガス産業を含む多くの分野で、ディープラーニングアルゴリズムが活用され、生産ラインの品質保証や安全性に関する自動アラートの生成や、予知保全システムのサポートが行われています。また、産業用ロボットの強化や、安全性を確保するための作業環境監視にも役立っています。

医薬品や医療製品の開発では、薬物の効果予測や副作用の特定が可能となり、精密医療として個別化された治療が提供されています。公共部門では、人口の健康リスク予測やセキュリティチェックでの顔認識技術が導入されています。

小売業や電子商取引では、レジなしショッピングや「ただ歩いて出られる」店舗のような新しいショッピング体験が提供されており、音声対応ショッピングや店内ロボットなども普及しています。さらに、画像検索や購買習慣分析を活用して、より正確な製品需要予測や効果的な在庫管理が可能となり、パーソナライズされたショッピング体験も提供されています。

特に、ECサイトにおけるレコメンドエンジンでもディープニューラルネットワークは重要な役割を果たしています。従来のレコメンド機能では、サイトに訪れたユーザーが閲覧したり購入した商品に基づいて関連商品を提案していましたが、購入や閲覧履歴がない場合、レコメンドの精度が低いことが課題でした。しかし、ディープニューラルネットワークを活用して商品の特徴を中間層で抽出し、それらの情報をもとに、過去の記録がなくてもユーザーの行動から精度の高いレコメンドができるようになりました。

ディープニューラルネットワークを利用時の課題

ディープニューラルネットワークを利用したディープラーニングには課題があります。

  1. 高精度なモデルを構築するためには膨大なデータが求められる
  2. 結果がどのように導き出されたかの根拠が不明確な場合が多く、結果の信頼性や解釈の難しさが課題になる
  3. 設備や環境の整備、エンジニアの確保、メンテナンス費用など、初期投資と運用コストがかさむ
  4. 複雑な人間の感情を理解することが難しく、合理的な判断はできても、感情を伴うタスクや倫理的な問題には対応しにくい

大量のデータが必要

ディープラーニングを実施する際に必要になってくるのが大量かつ、正確なデータです。データは高い精度のモデルを構築する際にはもっとも重要な要素であり、多くの場合、ディープニューラルネットワークで高いパフォーマンスを発揮するためには大量のデータが必要です。

また、学習時にはモデルが未学習(アンダーフィット)や過学習(オーバーフィット)のような問題に直面することがあります。未学習はデータ不足が原因で発生しますが、過学習はトレーニングデータが改善する一方でテストデータが一定のままであることが原因で発生するため、学習を進めるためにも大量のデータが必要になります。

出力の根拠が不明確

ディープラーニングは人間が扱いきれないような大量のデータを処理することができますので、出力した結果がどのような経緯で出たのかの根拠を明確にすることができません。AIの精度が高まっていることは事実ですが、最終的に判断する人間がAIのミスに気づかなければ致命的なミスを引き起こすことが考えられます。AIがどれほど優秀であっても人間の判断が必要になってくる理由の1つはAIの結果が必ずしも信じきれないというところにあります。

導入コストが高額

ディープラーニングを導入する際には設備、環境、エンジニアの確保などの初期投資に高額なコストがかかることはもちろん、精度を上げるためのメンテナンスや学習の際にもコストが発生します。

複雑な感情は理解できない

ディープラーニングはニューラルネットワークをベースに作られていますが人間のような複雑な感情まで理解できているわけではありません。構築されたモデルに応じて合理的に判断することはできますが、人間であればできて当然な倫理的な問題を解決することは難しいことが多く、相手の感情を理解する必要がある教育分野のタスクに対しては必ずしも最適解を出せるとは限りません。

最後に

ディープニューラルネットワーク(DNN)は、複雑な課題を解決するために開発された深層学習モデルであり、画像認識や自然言語処理、自動運転などの分野で幅広く活用されています。従来のニューラルネットワークに比べて、複数の中間層を持つディープニューラルネットワークは、より高度な情報処理が可能ですが、大量のデータを必要とすることや導入コストが高いこと、結果の根拠が不明確な場合があるという課題も抱えています。これらの課題に対処することで、さらに精度の高いAIシステムの開発が期待されます。

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執筆者

慶應義塾大学卒業後、総合化学メーカーを経てデロイトトーマツコンサルティングに在籍。新規事業立ち上げ、M&A、経営管理、業務改善などのプロジェクトに関与。マーケティング企業を経て、株式会社ProFabを設立。ProFabでは経営コンサルティングと生成導入支援事業を運営。

TechTechでは、技術、ビジネス、サービス、規制に関する最新ニュースと、各種ツールの実務的な活用方法について、初心者でも理解できる明瞭な発信を心掛ける。日本ディープラーニング協会の実施するG検定資格を保有。

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