アノテーションとは?機械学習やビッグデータとの関係と実施時の注意点

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アノテーションとは、英語で注釈を意味し、AIや機械学習の分野ではデータにラベルを付ける作業のことを指します。アノテーションはAIがデータからパターンや法則を学ぶための基礎となり、精度の高い機械学習を実現するために不可欠です。テキスト、画像、音声など、様々なデータにタグ付けを行うことでAIが効率的かつ正確にデータを解析できるようになるため、AI技術を支える重要なプロセスとして広く活用されています。

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目次

アノテーションとは

アノテーションとは、英語で注釈を意味する言葉であり、AIの分野ではデータにラベル(情報タグ)を付ける作業のことを意味します。AIに機械学習をさせる場合には膨大なデータを処理するため、テキストデータや画像、音声、動画などに注釈情報を付けておくことで学習精度を向上させることができます。

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AIが画像データを正しく認識するためには、学習する情報の特徴をパターン化して把握する必要があります。例えば、次のように特徴となる情報を事前に付けておくことで学習が効率的に進みます。アノテーションを行うということは機械学習の事前準備工程の1つといえます。

  • ライオン:オスは風になびく黄金色のたてがみを持ち、力強い体躯が特徴的。アフリカのサバンナに生息し、群れで生活する社会的なネコ科動物。
  • チーター:世界で最速の陸上動物で、時速100km以上で走ることができる。スリムな体型と長い尾が走行中のバランスを保つために役立つ。

また、アノテーションという用語はAIの分野以外にも次のような使われ方をします。

  • WEBサイト:PC用とスマートフォン用に同じ情報の別ページが存在する場合に、検索エンジンに同じページだと伝達するための情報
  • Java:プログラム内に記載するコメント
  • YouTube:YouTubeの画面上にあるクリックできるテキスト情報(現在は廃止)

上記のように様々な環境で使われる用語ですが、いずれも追加情報という点では共通しています。AI分野でのアノテーションもコンピュータに対する追加情報という意味で使われています。

アノテーションの必要性

AIは機械学習により精度を高めることができますが、精度の向上には品質の高い膨大なデータを必要とします。アノテーションによりデータを分類し、パターン化しやすくなりビッグデータを効率的に処理することができるようになります。

機械学習のための教師データの利用

AIはビッグデータから集めたデータを基に精度の高い情報を出力することができますが、学習には大量の教師データ(問題と正解をセットにしたデータ)を使った機械学習が必要です。アノテーションによりデータで何を示しているのかを追加することで機械学習に必要な教師データを作ることができます。

AIがデータから法則や特徴を見つけるためにはタグが付いたデータを処理することでパターン認識をする必要があります。このときにタグが付いていなければ正しい学習をすることはできないため、アノテーションは機械学習には必須の前工程です。

ビッグデータの管理の効率化

ビッグデータとは巨大なデータ群のことですが、明確な定義はありません。ビッグデータをビジネスで活かすには詳細なデータ解析が必要ですが、情報が膨大であるため効率的にビッグデータを利用するためにはアノテーションが必要です。

特にWEB上のデータを扱う場合には必要なデータを収集することは困難ですが、アノテーションによってデータにタグ付けがされていれば対象となるデータを集めやすくなり、管理もしやすくなります。

アノテーションの種類

アノテーションには次のような種類があります。

  • テキストのアノテーション
  • 画像のアノテーション
  • 音のアノテーション

テキストアノテーション

テキストアノテーションでは予め定義されたカテゴリを基に文章や段落にタグ付けを行います。アノテーションにより大量の文書から特定の情報を抽出したり、解析したりすることが可能になります。大量のデータの中から必要なテキストを収集することにも利用できるため、SNS投稿から特定の情報を抽出したり、ニュースサイトの記事を経済、科学、金融のようなカテゴリ分けをする際に使われます。

画像のアノテーション

画像のアノテーションでは次のような方法があります。

  • 物体検出(オブジェクト・ディテクション)
  • 領域抽出(セマンティック・セグメンテーション)
  • 多角形による領域指定(ポリゴン・セグメンテーション)
  • 画像分類(クラシフィケーション)
  • 目印の検出(ランドマーク・アノテーション)

物体検出とは、長方形で囲まれた画像の中から物体を見つけて「人」、「海」、「浜辺」のように画像に応じて意味のある情報をタグ付けしていくことです。物体をカテゴリ別に分類するため、1枚の画像内に複数のものがあったとしてもタグ付けを行うことで問題なく判別することができるようになります。

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左:セマンティック・セグメンテーション、右:ポリゴン・セグメンテーション

領域抽出(セマンティック・セグメンテーション)とは、上図左のように画像内の領域を選択して対象ごとに色分けしてタグ付けすることです。画像を長方形で囲って物体を検出するだけでは背景のように関係のない情報まで含んでしまいますが、領域抽出のように画像データの1ピクセルごとにタグを設定することで厳密に対象だけを処理することができます。上図右のように長方形ではなく多角形を使って囲んでタグ付けすることはポリゴン・セグメンテーションと呼ばれます。

画像分類(クラシフィケーション)では領域を指定して分類するのではなく、画像を見てカテゴリに分類するという簡単なアノテーションを付けることです。人間、ネコ、イヌのように画像1枚に対して1つのカテゴリに分類することで作業コストを下げることができますが、人間とネコが同時に映っている画像のような場合には判別が困難です。

目印の検出(ランドマーク・アノテーション)では、目や口などのパーツを点で指定することで物体を検出してタグ付けをおこなうことです。細かいアノテーションを付けることで顔の表情や体の動きなどを正確に捉えることができます。

音のアノテーション

音のアノテーションには音量や音の種類にタグ付けを行うものや音声の意味にタグ付けを行うものがあります。音声のアノテーションでは会話を文章として文字起こしし、単語に対してタグ付けを行うのが一般的です。テキスト化することで議事録の作成や自動翻訳に使うことができ、年齢や性別などのパターンを考慮することで精度を高めることができます。

業務へのアノテーション活用例

物流業務の自動化と効率化

OCRを利用して発送ラベルや納品書の内容を自動で読み込み、発送先や商品情報に基づいてタグ付けを行うシステムが導入されています。手作業で行われていた確認作業が自動化され、ヒューマンエラーの削減と効率化が実現されています。

また、商品のバーコードを読み取って、倉庫内での管理をタグ付けにより効率化することにも利用されています。外見からは区別が難しい商品をバーコードで整理することで、保管場所や商品情報の管理が容易になっています。

自動運転と配送業務の効率化

自動運転技術を活用した効率的な配送が可能です。信号や標識をAIが認識し、ドライバーの見落としを補うことで事故のリスクを低減し、倉庫内では自動運転ロボットの導入によって、人手不足の解消が期待されています。

自動運転で周囲の車両や歩行者、標識などを正確に認識するためにはアノテーションによって学習データを整備することが重要です。画像認識技術の精度が向上し、より安全な自動運転が実現されます。

品質管理や機械の正常判断への利用

大量のデータを元にAIが機械の正常と異常を高精度に判別し、熟練者の判断に頼らずに品質管理を自動化できるようになります。製造ラインでは画像の特定部分にタグ付けを行うことで、不良品をより高精度に識別し、検出精度を向上させます。

医療、教育、セキュリティ分野への利用

医療機関ではCTやMRIなどの医療画像にアノテーションを施すことで疾患の検出精度が向上し、病名や治療法のアノテーションにより、研究や治療の改善に貢献します。

語学教育では文章の品詞や文法構造をアノテーションすることで自動翻訳や文章解析の精度向上が期待されます。また、セキュリティ分野での監視カメラ活用では監視カメラに映る人物や物体にアノテーションを付与することで、不審者や異常行動の検出精度を向上させ、セキュリティ強化に役立てます。

アノテーション実施時の注意点

アノテーションはAIの解析精度に直結する重要な工程であり、質の高いデータを確保するために慎重に行う必要があります。データの収集と分類方法、タグ付けの方針を事前に決める必要があり、ここに時間がかかることがあります。また、計画が不十分であればデータが効果的に活用できない可能性があります。

アノテーションを行うデータが十分に揃っていない場合やデータの質やバリエーションが足りない場合は、データ収集のプロセスを検討する必要があります。外部への依頼やツール選択に関するリードタイムも考慮に入れなければならず、場合によってはプロジェクトをフェーズに分けて進行させることが推奨されます。

大量のデータに対する難しさ

アノテーション作業には膨大な労力がかかり、全てを手作業で行うのは非現実的です。アノテーションツールを活用し、大量のデータに対して効率的にタグ付けを行うのが一般的ですが、ツールをうまく活用するためには専門知識が必要となる場合が多く、専門会社に外注することになります。

ツールの選定は自社の目的やデータ環境に適したものを選ぶ必要がありますが、不適切なツールを使用すると期待通りにアノテーションができず、無駄なコストが発生することが考えらえるため、ツールの機能や性能を十分に検討し、作業効率と精度の向上を目指す必要があります。

専門知識と品質管理の重要性

高度なアノテーションには専門知識が必要です。例えば、医療データに対するアノテーションでは医療従事者による作業が求められ、短期間で大量のデータを収集することは困難です。そのため、専門家との協力体制の構築や複数企業に依頼するなどの工夫が必要です。

クラウドソーシングを利用した場合には安価に抑えられることが多い反面、アノテーションの品質管理が問題になることが考えられます。作業者ごとに認識が異なることがあり、ラベリングに差が生じるとうまく処理できなくことが考えられるため、同一データを複数の作業者に割り当てたり、作業の差異を機械的に可視化するツールを活用するなど、品質管理のための対策が必要です。

効率化と外注の選定

アノテーション作業の効率化にはアウトソーシングの活用や半教師あり学習などのアプローチが有効です。特に、プロジェクトの初期段階であればデータサイエンティストや機械学習エンジニアがアノテーションを行うことが可能ですが、実運用に向けたモデル改善の段階では長期的かつ大量のデータに対応するための効率化が求められます。

外注する際には価格だけでなく、品質や作業精度をしっかりと確認し、契約前にアノテーションの内容や具体的なタグ付け方法を細かく検討することが重要です。品質の低い外注先を選んでしまうとアノテーションデータが無駄になるリスクがあるため、慎重な選定が求められます。

最後に

アノテーションはAIや機械学習の精度向上に不可欠なプロセスであり、正確なデータラベルの付与が鍵となります。テキスト、画像、音声など、多様なデータに対応したアノテーションがあり、AIが効率的にデータを処理できるようになります。AIには欠かせないビッグデータの管理にも大きく寄与しますが、大量のデータに対してアノテーションすることが自体が難しく、品質管理や効率化を十分に考慮して実施することがアノテーションの成功に重要な要素といえます。

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執筆者

慶應義塾大学卒業後、総合化学メーカーを経てデロイトトーマツコンサルティングに在籍。新規事業立ち上げ、M&A、経営管理、業務改善などのプロジェクトに関与。マーケティング企業を経て、株式会社ProFabを設立。ProFabでは経営コンサルティングと生成導入支援事業を運営。

TechTechでは、技術、ビジネス、サービス、規制に関する最新ニュースと、各種ツールの実務的な活用方法について、初心者でも理解できる明瞭な発信を心掛ける。日本ディープラーニング協会の実施するG検定資格を保有。

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