AI(人工知能)とは?AIの歴史とAIリスクへの向き合い方

AI(Artificial Intelligence、人工知能)は、人間の知的活動を模倣する技術です。AIの歴史は1950年代に遡り、ダートマス大学のジョン・マッカーシー教授が初めてAIという言葉を用いたことで始まりました。現在、AIは多くの分野で利用されており、その可能性は非常に大きく、今後はさらに発展することが予想されています。

AIの技術には、エキスパートシステム、機械学習、深層学習(ディープラーニング)、自然言語処理などがあります。これらの技術により、AIはデータ分析や自動化、予測など様々な分野で活躍しています。しかし、AIの導入にはメリットとデメリットがあり、リスクも伴います。

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目次

AI(人工知能)とは

AI(Artificial Intelligence、人工知能)は人間の言葉の理解や認識、推論などの知的行動をコンピュータに行わせる技術のことです。人工知能の概念は1950年頃から存在していましたが、AIという言葉を用いたのはダートマス大学のジョン・マッカーシー教授です。1956年に同大学で行われた研究会において、初めてAIという言葉が使用されたといわれています。

ただし、AIは一般的に人間を模倣した技術と認識されているだけであり、研究者ごとに認識が解釈が異なるため、明確な定義が存在するわけではありません。また、AIには非常に大きな可能性があり、今後の発展形が未知数であることも定義が定められない理由になっています。

一例ですが、AI研究の第一人者である松尾豊教授(東京大学)はAIを次のように定義しています。

「人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれをつくる技術。人間のように知的であるとは「気づくことのできる」コンピュータ、つまり、データの中から特徴量を生成し現象をモデル化することのできるコンピュータという意味である。」

また、AIという言葉の生みの親であるジョン・マッカーシー教授はAIのことを「It is the science and engineering of making intelligent machines, especially intelligent computer programs.(知的な機械,特に,知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術です。)」と説明しています。

参考:WHAT IS ARTIFICIAL INTELLIGENCE?

AGI(汎用型人工知能)はまだ存在しない

2022年にChatGPTが生成AIとして世界に台頭し、AI技術は飛躍的に進歩していますが、AIにはまだ大きな誤解があります。もっとも大きな誤解としては、あらゆる問題に対応できるほど賢いAIが既に存在するというものです。

現在のAIは人間の認識能力、常識、感情などのすべてを理解しているわけではなく、特定の一部の機能に対して非常に有効な手段になっているに過ぎません。あらゆる課題に対応できる汎用型人工知能(AGI:Artificial General Intelligence)を実現することは研究者にとっては大きな目標になっていますが、2024年の時点では決め手になる解決策は見つかっていません。

AIの特徴

AIの特徴は、次の2つの性質が備わっていることです。

  • 自律性:人間が指示を出さなくとも作業を遂行できる能力
  • 適応性:学習や経験した内容をもとに能力をアップできる能力

この両方が備わっているAIは掃除機、洗濯機、炊飯器、食洗器のような家電を制御するプログラムをはじめ、日常の様々な作業で活用されています。

AIの歴史

ChatGPTが世界を騒がせたのは2022年のことですが、AIの研究は1950年代から始まっており、AIの基になる概念は1940年代から提唱されています。現在までに大きく3回のAIブームがあったといわれています。

AIの歴史:3度のAIブームで段階的に発展してきている

ニューラルネットワークの提唱(1940年代)

AIという言葉は登場していませんが、1943年に心理学者のウォルター・ピッツ氏が人間の神経細胞をコンピュータで再現するニューラルネットワークの概念を提唱しています。その後、イギリスの数学者アラン・チューリング氏が対象となる機械に人間のような知能があるかどうかを判定するチューリングテストのアイデアを考案しています。このニューラルネットワークはAIの仕組みに大きな影響を与えています。

第1次AIブーム(1950~1970年代)

1956年にアメリカのダートマスで行われたダートマス会議で初めて、人間のように考える機械のことをAI(人工知能)と呼ぶようになったことがAIの登場です。この時代は推論(人間の思考過程を表現し、実行しようとすること)や探索(解き方のパターンを場合分けして目的となる条件を探し出すこと)の技術によって、パズルやオセロ、チェスなどの簡単なゲームをはじめとする、明確なルールが存在する問題に対して高い性能を発揮しました。しかし、複雑な問題を解くことは難しく、性能に限界が見えたことにより第1次AIブームは下火となります。

この第1次AIブームで注目された出来事としては1965年に誕生した道の有機化学物質を特定するDendral(デンドラル)、1966年に作られた人工対話システムELIZA(イライザ)、1972年に誕生した細菌感染の診断を行うMycin(マイシン)などが挙げられます。

第2次AIブーム(1980~1990年代)

第2次AIブームはコンピュータが普及し始めた1980年代〜1990年代に起こります。特定の知識を取り込んだコンピュータが専門家のように推論するエキスパートシステムが登場し、ビジネスや医療の分野で実用化が進みました。しかし、精度を高めるためには知識という膨大なデータを人間が用意する必要があり、言語化しにくい知識のデータ化が困難だったことや例外的な処理に対応できないことから次第に勢いを失っていきます。

1984年には一般常識をコンピュータに取り込み、AIに推論を行わせるCyc(サイク)プロジェクトが始まり、日本では1982年に人工知能型の第5世代コンピュータの研究、開発が政府により勧められました。しかし、当時の技術では理想的なAIを実現することはできないという結論が下され、AIブームは再び沈下していきました。

第3次AIブーム(2000年代~)

第3次AIブームのきっかけは大量のデータが利用できるようになり、同時に高速コンピュータが普及したことによります。ビッグデータと呼ばれる膨大なデータの記憶や処理が容易になったため、AIがデータの規則性を見つけ出す機械学習が可能になったことでAIの研究が飛躍的に進みました。2006年には、さらに複雑な判断が可能になる深層学習(ディープラーニング)が実用化され、非常に大きな発展を遂げます。

第3次AIブームで注目を集めているのが生成AIです。入力した指示(プロンプト)に基づいて文章や画像を出力するChatGPTやMidjourneyなどが登場します。ハルシネーション(事実とは異なる内容や文脈と無関係な内容)や倫理的、法的なリスクが指摘されていますが、今後はさらに多くの場面で活用されることが期待されています。

AIの種類

AIは種類によって用途や分野が異なるため、できることによっていくつかの種類に分類されます。大枠で分けると、人間が持っている意識と同じような意識を持っているかどうかで強いAIか弱いAIで分ける方法と、実現できることの範囲によって汎用型AIか特化型AIで分ける方法があります。

強いAIと弱いAI

強いAIと弱いAIはアメリカの哲学者ジョン・サール氏によって提唱された概念で、人間の持っているような意識を持っているかどうかでAIを分類しています。

強いAI(strong AI)とは人間のように自意識を備えているAIのことで、全認知能力が必要になる作業にも対応することができます。強いAIは人間が事前にプログラムしたり、知識を与えなくても状況に応じて判断することができます。

弱いAI(weak AI)は与えられた仕事は自動的に処理するものの、事前にプログラムされていない仕事には対応できないAIのことです。特定のタスクしか処理することができないものではありますが、現在、実用化されているAIはすべて弱いAIに該当します。

汎用型AIと特化型AI

実現できる機能の範囲でAIを分けた場合には汎用型AIと特化型AIで分けることができます。

汎用型AI(AGI:Artificial General Intelligence)は人間と同じ思考を持っているAIのことです。人間のような問題処理能力を持っているため、あらゆる問題に対応することができますが、現時点では汎用型AIを実現するための方法は明らかになっていません。

特化型AI(ANI:Artificial Narrow Intelligence)は特定の作業にのみ特化したAIのことです。特化型AIの代表例としては、自動運転技術、画像認識、音声認識、翻訳、株価予測、囲碁・将棋・チェスなどが挙げられます。特定の能力は非常に高いものの、別の作業を行うことはできません。

AIの技術用語

エキスパートシステム

エキスパートシステムは特定の分野の専門家が有している知識や経験をコンピュータに取り込み、活用することで問題を解決するアルゴリズムのことです。第2次AIブームで話題になり、病名診断システムや株価予測などに利用されていましたが、現在ではリスク管理、機械の故障予測、SiriやGoogle assistantなどのAIアシスタント機能にも利用されています。明示的にプログラムされたルールやロジックに基づいて動作するルールベースAIのうちの1つです。

機械学習

機械学習とはコンピュータがデータ分析をする手法の1つで、コンピュータに大量のデータを読み込ませることでデータ内のパターンや規則性から未知のデータに対して予測や判断を行うための技術です。人間が登録した情報を基に処理を進めるルールベースAIと異なり、大量のデータから自動的にパターンを学習するため、柔軟な対応をすることができます。コンピュータの学習方法としては次の3つが挙げられます。

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強化学習ラベル(正解データ)の用意された教師データを元に、ルールやパターンなどを学習する方法です。需要予測や画像認識などに使われ、データセット(標本データ)に基づいた予測モデルを形成します。
教師あり学習ラベル(正解データ)のない大量のデータをクラスタ分け(グルーピング)しながら、ルールやパターンなどを見いだす学習方法です。データセットの規則性や類似性に基づいて機械が予測モデルを形成します。
教師なし学習データが用意されていない状態から始まり、試行錯誤を繰り返して結果を学習していく方法です。目的として設定したスコアを最大化できるように、機械に自ら試行錯誤する方法です。
機械学習の種類

深層学習(ディープラーニング)

深層学習(ディープラーニング)とはニューラルネットワークを使い、共通点を自動的に抽出することで高精度な分析を可能にする学習方法です。データからルールやパターンを見つける際に処理を多層化することで、より正確な判断ができるようにしています。深層学習により、従来学習が難しいとされてきた画像や自然言語のような非構造化データも学習できるようになりました。

自然言語処理

自然言語処理(NLP:Natural Language Processing)とは、人間の言語に対してコンピュータが意味の解析を行うための処理のことです。機械翻訳、音声認識、文字認識などに用いられます。ChatGPTで利用されている大規模言語モデル(LLM:Large Language Models)は自然言語処理によって大量のデータを深層学習して誕生した数理モデルです。学習が進んだことで以前はできなかった自然な質疑応答や人間が書いたような文書作成が可能になりました。

AI導入のメリットとデメリット

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AI導入のデメリットAI導入のデメリット
・生産性の向上
・労働力不足の解消
・ミスの減少や安全性の向上
・精度の高い分析や予測
・コスト削減
・雇用の減少
・責任の所在が不明瞭になる
・情報漏洩のリスク
・リスク管理が困難
AI導入のメリット・デメリット

AI導入のメリット

企業がAIを導入するメリットには次のようなものがあります。

  • 生産性の向上
  • 労働力不足の解消
  • ミスの減少や安全性の向上
  • 精度の高い分析や予測
  • コスト削減

基本的に、AIで代替できることはAIの方が早いため生産性が向上します。結果、省人化や無人化ができるようになるため労働力が解消します。ヒューマンエラーをなくすことができるため、ミスが減ったり安全性が向上します。また、決まったルールに則ったデータ分析はAIの得意分野ですので効率化が測れ、コストも削減されるようになります。

このように、AIを導入することで得られるメリットは極めて大きく、大企業であるほどAIの積極運用を手掛けています。

AI導入のデメリット

企業がAIを導入するデメリットには次のようなものがあります。

  • 雇用の減少
  • 責任の所在が不明瞭になる
  • 情報漏洩のリスク
  • リスク管理が困難

AIの導入は企業にとっては非常に有効な施策になることが多いものの、AIが台頭することで雇用が失われるのではないかと疑問視する声もあります。特に単純作業や特定領域ではAIの方が早くて高品質であることが多く、懸念する声が確認できています。また、AIの自動運転では責任の所在がどこになるのかが不明確であったり、AIを利用することで学習に利用されることがデータ漏洩に繋がるという可能性もあります。

ただし、AIで代替できない業務の雇用が増えることやAIを活用する業務は増える可能性は挙げられており、懸念事項を考慮しても総合的には企業のAI導入の動きは加速することが考えられます。AIの台頭はラッダイト運動(19世紀初頭のイギリスで起こった産業革命期の労働者による反機械化運動)に準えて語られることはありますが、世界的な動きとしては問題を解決しつつ、AIとうまく付き合っていく方法を探っている状況です。

AIのリスクと今後の課題

生成AIの台頭によりAIリスクはより顕著になりました。AIの利用にあたっては技術的リスク(誤判定、バイアス、ハルシネーション、安全性、セキュリティなど)や社会的リスク(プライバシー侵害、政治活動への悪用、不正目的、権力集中、財産権の侵害、環境負荷、心理的影響など)がありますが、企業がAIを活用する際には、さらに法的なリスクやレピュテーション(信頼、評判)リスクも存在します。

AIセーフティ・インスティテュート(AISI)はAIの安全性の担保のためにAIガバナンスの必要性であり、安全・安心を確保しつつ、競争力の強化が必要だと主張しています。

AIガバナンスとはAIのリスクを受容可能な最小限に抑えつつ、AIがもたらす価値を最大化することを目的とする

AIセーフティに関する取り組みについて(AIセーフティ・インスティテュート)

また、AISIはAIリスクの重要な視点として次の4つを挙げています。

  1. AIリスクの状況は常にアップデートされる
  2. AIガバナンスの目的は、リスクをゼロにすることではない
  3. あらゆる組織、個人がAIリスクと対面する
  4. AIリスクは提供する側・開発する側だけに関係するものではない

AIの活用は既に大手企業を中心に始まっていますが、個人レベルでも利用している層が出ている以上、今後の動きが緩くなることは当面考えられません。そうなると、AIリスクを最小限に抑えつつ、どのように有効活用することができるかという観点での判断が必要になります。

最後に

AI(人工知能)は、人間の知的活動を模倣する技術であり、1950年代から研究が進められてきました。AIには自律性と適応性という2つの特徴があり、人間が指示を出さなくても作業を遂行し、経験をもとに能力を向上させることができます。

AIの利用に伴うリスクとしては、技術的リスクや社会的リスクがあり、企業がAIを活用する際には法的なリスクやレピュテーションリスクも考慮する必要があります。AIガバナンスの重要性が増しており、安全性と競争力の強化が求められていますので、AIのリスクを最小限に抑えつつ、どのように有効活用するかが重要な課題となるはずです。

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執筆者

慶應義塾大学卒業後、総合化学メーカーを経てデロイトトーマツコンサルティングに在籍。新規事業立ち上げ、M&A、経営管理、業務改善などのプロジェクトに関与。マーケティング企業を経て、株式会社ProFabを設立。ProFabでは経営コンサルティングと生成導入支援事業を運営。

TechTechでは、技術、ビジネス、サービス、規制に関する最新ニュースと、各種ツールの実務的な活用方法について、初心者でも理解できる明瞭な発信を心掛ける。日本ディープラーニング協会の実施するG検定資格を保有。

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