SB OpenAI Japan設立。ソフトバンク大博打とOpenAI救済で未来はいかに

SB OpenAI Japan

ソフトバンクグループとOpenAIが日本から汎用人工知能(AGI)を広めるために共同出資でSB OpenAI Japanを立ち上げました。OpenAIの最新モデル群とソフトバンクのエンタープライズ向けノウハウを組み合わせた企業向けAIプラットフォーム「クリスタル・インテリジェンス」を提供する予定です。まずはOpenAIと共同開発でソフトバンクグループ内で実用性を検証し、「一業種一社ずつ」を方針として、各業界を代表する企業に段階的に導入を図る構想を持っています。

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SB OpenAI Japan誕生の背景

SB OpenAI Japanは、OpenAIとソフトバンクグループ(SBG)が共同で設立する合弁会社です。2025年2月3日に発表され、両社が50%ずつ出資する形でスタートします。ソフトバンクの連結子会社として日本市場を主戦場に活動し、企業向けの生成AIサービスを手がける戦略拠点として位置づけられています。

この合弁事業を主導しているのは、ソフトバンクグループ創業者で代表を務める孫正義氏と、OpenAIのCEOサム・アルトマン氏です。孫氏はChatGPTの熱心なユーザーであり、「毎日ChatGPTと対話している」と公言するほどAI技術への強い関心を示してきました。2023年にはアルトマン氏との協議を継続的に行い、OpenAIへの大型投資を検討していると明かしていたほどです。そうした密接なやりとりを重ねる中で両社の連携が深まり、SB OpenAI Japanが生まれました。

孫氏が掲げるビジョンは、日本から汎用人工知能(AGI)を広めていくことです。SB OpenAI Japanはその第一歩と位置づけられており、ソフトバンクグループは年間約30億ドル(約4,500億円)もの資金をこのプロジェクトに投じる計画を立てています。グループ全体のシステムやデータを活用し、世界でも例を見ない大規模なAI導入を実現しようとしている点が大きな注目を集めています。

クリスタル・インテリジェンス

SB OpenAI Japanが中核として開発する「クリスタル・インテリジェンス」は、OpenAIの最新モデル群とソフトバンクのエンタープライズ向けノウハウを組み合わせた企業向けAIプラットフォームです。企業が保有するあらゆるシステムやデータを安全に取り込み、その企業専用に調整されたAIを提供することで、業務への深い組み込みを可能にします。

クリスタル・インテリジェンスが実装するAIエージェント「Cristal」は、OpenAIが2024年に公開したo1シリーズモデルをベースとしています。2025年にはユーザーが与えたタスクを自律的にこなす高度なエージェントへ進化する見込みがあり、財務レポートの作成や問い合わせ対応、レガシーなソースコード解析など、多彩な業務を担えるとされています。孫氏はこのAIを「企業にとってのスーパーインテリジェンス」と表現し、従業員が創造的な業務や戦略立案など、より付加価値の高い役割に集中できる環境を作り出すことに期待を寄せています。

Cristalは導入企業ごとに専用のインスタンスを立ち上げ、その企業独自のデータセットや業務フローを学習させます。学習結果が他社に流用されることはなく、個人情報や機密情報を含まないよう厳重な管理体制を整備している点が特徴です。さらに、日本国内のAIデータセンターで顧客データを運用することで、セキュリティやデータ主権への配慮もしっかりと打ち出しています。

導入計画と展開シナリオ

SB OpenAI JapanのAIはまず、ソフトバンクグループ各社で実証が進められる予定です。通信事業のほか、LINEやPayPay、Armといったグループ企業において、膨大なタスクを自動化しながら実用性や有用性を検証していきます。ここで得られた知見やノウハウは、SB OpenAIが他の国内企業にサービスを提供する際の成功モデルになると見込まれます。

孫氏は「一業種一社ずつ」を方針としており、各業界を代表する企業に段階的に導入を図る構想を語っています。ソフトバンクが持つ幅広い法人顧客基盤と営業体制をフルに活用し、グループ外にも積極的にAIを普及させる計画です。導入企業にはソフトバンクのエンジニアや営業要員がサポートに入り、スムーズなAI実装を後押しする体制を整えています。

合弁会社とはいえ、OpenAIは自社の最新技術をSB OpenAI Japanに優先的に提供します。たとえば、自律型リサーチエージェント「Deep Research」は、数千件に及ぶ情報源を高速解析し、詳細レポートを短時間で生成する革新的なツールです。ChatGPT Enterpriseなど既存のAIサービスもグループ全社員に活用を広げ、AIリテラシーの向上に寄与しようとしています。

「SB OpenAI Japan設立」について一言

AIビジネスに関わる方々にとっては非常にセンセーショナルなニュースであり、さまざまな感想を私自身感じました。AIの社会実装という観点では、AGIの開発・普及を数年単位で前倒すことになるのではないかと思います。ソフトバンク自体が社会実装に本腰を入れる直接的な影響はもとより、Microsoft、Google、Salesforceなど企業全体のエージェント開発に着手する事業者は数多く存在しており、競争が激化することでより間接的に市場も活性化するものと思います。

個社について見ていくとOpenAIの財務状態が短中期的には持続可能ではないことはよく知られていますが、ソフトバンクから年間30億ドルの資金を得ることで、事業の継続について一定の説明可能性を担保することになるでしょう。

ソフトバンクとしては相変わらずブロードバンドやiPhone時代と同じタイムマシン的思考で、勝ち馬にフルベット、かつStargateにもフルベットしている状況です。クリスタル・インテリジェンスのビジネスとしての難しさとしては、AIビジネスでありながら労働集約型のビジネスであると感じています。大企業向けのAI導入はどちらかというと総合・ITコンサルファームが手掛けてきたような労働集約型のビジネスであり、ソフトバンクのような代理店ビジネスとは異なります。優秀層の大量採用、プロジェクトマネジメント、リスクマネジメントが求められるビジネスをどのように持続可能な形に落とし込むことができるか、は見どころかと思いますし、ここで優位性を確保できる事業者は今後のAGI導入の現場でも価値を発揮できるものと見ています。

出所:OpenAIとソフトバンクグループ、Arm、ソフトバンクによる法人向け特別イベント「AIによる法人ビジネスの変革」

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執筆者

慶應義塾大学卒業後、総合化学メーカーを経てデロイトトーマツコンサルティングに在籍。新規事業立ち上げ、M&A、経営管理、業務改善などのプロジェクトに関与。マーケティング企業を経て、株式会社ProFabを設立。ProFabでは経営コンサルティングと生成導入支援事業を運営。

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