AIの進化は、科学研究のプロセスにおいても大きな革新をもたらしています。Sakana AIが開発した「AIサイエンティスト」は、研究のアイデア出しから論文の執筆・査読に至るまで、ほぼすべてのプロセスを自動化するシステムです。これまでのAI関連ツールが人間の部分的な関与を必要としていたのに対し、AIサイエンティストはプロセスを全自動化する点が革新的であり、今後の研究開発の手法に大きな変革をもたらすことが期待されています。
AIサイエンティストの概要
AIサイエンティストは、研究プロセスの自動化を目的としており、特に大規模言語モデル(LLM)を活用して、研究のアイデア生成、実験の設計と実施、論文の執筆・査読といった一連の作業を完全に自律的に行います。ブリティッシュ・コロンビア大学との共同研究により、「The AI Scientist: Towards Fully Automated Open-Ended Scientific Discovery」という論文にまとめており、こちらで参照することができます。
従来の研究プロセスに比べて、時間とコストの大幅な削減が可能となりました。実証実験では、1本の論文を完成させるまでのコストは約15ドル(2300円)に抑えることができました。また、ソースコードはすべてオープンソースとしてこちらで公開されています。
AIサイエンティストの実行ステップ
AIサイエンティストが行う処理は、3つの主要な段階に分かれています。
まずは、LLMが新しい研究アイデアを生成し、その新規性を確認します。新規性の確認(既存の論文チェック)やアイデアのスコアリング(相対評価)を含みます。
次に、実験のテンプレートを作成し、実際の実験を反復的に行います。実験の結果はデータとして蓄積され、必要に応じて計画が更新されます。
最後に、生成されたデータを基に論文が執筆され、LLMによる査読プロセスが行われます。今回の開発には生成された論文を人間に近い精度で査読・評価できるLLM自動レビューも含まれており、査読・改善の品質向上に大きく貢献しています。
「AIサイエンティスト」について一言
かなり衝撃的です。今回は研究開発分野の自動化に関するトピックですが、ここまで広範な領域を自動化できてしまうのであれば、調達やマーケティングなど、企業活動のその他の分野の自動化ももうすぐそこといった感じではないでしょうか。それほどまでも基盤モデルの社会実装における一つの山を越えたような印象を受けました。
また今回AIサイエンティストの成果物として紹介されていたものは、AIに関する研究開発でしたが、化学や物理領域の実験のように手を動かす領域についての展開が気になりました。AI×物理領域が向こう数年のテーマになるかもしれません。
いずれにしても、研究開発コストがたったの数千円になりアカデミックな領域への距離感が近づくことで、研究開発の民主化がより後押しされることでしょう。