2025年1月23日、新たな大統領令が署名され、アメリカのAI(人工知能)分野に関する既存の政策や指令の一部が撤回・見直しされることになりました。2023年10月30日のバイデン政権下で発表された大統領令14110(「人工知能の安全、安心、信頼できる開発と利用に関する大統領令」)への対応も含め、米国政府がAIにおける世界的リーダーシップをさらに強化しようとしている姿勢が浮き彫りになっています。
新大統領令の概要
今回の大統領令は、AI技術でのアメリカの国際競争力を維持・強化することを明確に掲げています。特に「経済競争力」「国家安全保障」「人類の繁栄」の3つを重視し、イノベーションを阻害する要因や社会的課題を最小化することを目指しています。大統領令の本文では、既存のAI関連政策や指令を見直し、必要に応じて撤回や改訂を行うよう各機関に指示がありました。
2023年10月30日のバイデン政権時代に署名された大統領令14110は、「人工知能の安全、安心、信頼できる開発と利用に関する大統領令」とされ、AIの安全性・セキュリティ・プライバシー・公平性・市民権などの懸念に対処しつつ、イノベーションと国際協力を推進する目的を掲げていましたが、「イデオロギー的偏見」や「設計された社会的アジェンダ」を排除することで、規制の少ないAI開発へ向かう動きを示唆しています。
新大統領令は、180日以内に「AI行動計画」を策定し、前大統領令14110に基づくポリシー・命令・規制などを再評価するよう、各行政機関に求めています。前大統領令が定めた措置が今回の大統領令の方針と矛盾すると判断された場合、適用法に基づいて一時停止・改訂・撤回、あるいは必要に応じて免除措置を提供するよう指示されています。また、OMB(行政管理予算局)には、60日以内にOMB覚書M-24-10およびM-24-18を改訂し、新大統領令の目的に合致させるよう要請されています。
「新大統領令」について一言
2025年に入りトランプ政権となってからは、AIに限らずアメリカを取り巻く環境が大きく変わってきているように感じます。これだけの風向きを変えるのに一役買っているのが「大統領令」です。大統領令とは、大統領が連邦政府機関や軍に対して発する行政命令で、法的拘束力を持ちます。議会の承認や行政手続きが適用外なので即刻発行できるのが特徴です。こう言われると完全な独裁ではないかとも思いますが、大統領令と言えども憲法に準じていること、議会・司法からの差し止め、次期大統領による撤回、といった形式上のセーフガードはあるようです。
今回の大統領令は、AIをめぐる国際競争が激化するなかで、アメリカがさらに主導権を握るための明確なメッセージだと感じます。ソフトバンクとOpenAIのStargate Project、OpenAI Govの政府導入といったAI関連のトピックもこうした動きを象徴しています。一方で、前大統領令14110が重視していたAIの安全性やセキュリティ、公平性などの要素をどの程度継承するのかは今後の政策運用次第といえるでしょう。国際協力と国内産業保護とのバランスをどのように取っていくかに、今後ますます注目が集まります。
出所:REMOVING BARRIERS TO AMERICAN LEADERSHIP IN ARTIFICIAL INTELLIGENCE