Perplexity × SAP Joule 連携がもたらすリアルタイム意思決定

2025 年 5 月 20 日にラスベガスで開催された SAP Sapphire 2025 で、Perplexity と SAP は Perplexity の回答エンジンを SAP の生成 AI コパイロット Joule(ジュール) に直接組み込むと発表しました。これにより Joule の利用者は、SAP ワークフロー上で自社データと外部情報を統合したリアルタイムの洞察を瞬時に得られるようになります。

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Perplexity と SAP の協業

発表内容によると、Perplexity の コンテクスト検索(文脈を加味して関連情報を抽出する検索技術)が SAP Knowledge Graph(データ同士の意味的なつながりを定義する技術)と連携し、企業が保有する基幹データと外部の最新情報を同時に照会できるようになります。ユーザーは Joule のチャット欄に自然言語で質問するだけで、財務指標の推移グラフや市場動向を踏まえたシナリオ分析を即座に受け取ることができます。

たとえば「原材料価格の変動が第三四半期の利益率に与える影響は?」と尋ねると、Joule は過去の粗利率と市況データを組み合わせ、複数の影響シナリオを提示します。また「直近四半期の在庫回転率を教えて」と入力すれば、部門別の推移グラフが生成されるなど、ダッシュボードを開く手間なく可視化結果を確認できます。これらの回答は 権限制御 と データ分離 を前提に構築されており、機密情報が外部へ漏えいしないよう配慮されています。

SAP と Perplexity は、この統合によって「情報の信頼性」と「意思決定までのスピード」を両立させ、全社で同一品質のナレッジを再利用できる体制を目指しています。今回の協業は、エンタープライズ領域における 回答品質 の新基準を打ち立てる取り組みと位置づけられています。

前提:SAP Joule の概要

Joule は SAP が提供する生成 AI コパイロットで、ユーザーの役割や画面コンテキストを理解しながら自然言語の質問に回答し、業務プロセスを先回りして支援します。購買システムを開くと支出傾向を分析し、人事モジュールでは離職リスクの高い社員を示唆するなど、アプリケーションを横断して必要な情報を提示できます。

Joule の強みの一つは データの文脈理解 です。SAP S/4HANA(エスフォーハナ:ERP 基幹システム)や SuccessFactors(サクセスファクターズ:人事管理クラウド)などに散在するデータを Knowledge Graph で意味付けし、質問ごとに最適な背景情報を組み立てます。

もう一つの特徴は 拡張性の高い開発環境 です。「Joule Studio」というノーコードツールを使うことで、プログラムを書くことなく業務担当者自身が独自スキルや外部サービス連携を追加できます。たとえば経理部門が自部門専用の経費分析エージェントを作成するといった使い方が想定されています。

さらに、開発者向けには ABAP(アバップ:SAP 独自の開発言語)や Java 用の API を提供し、コード生成やテスト自動化を支援するため、プロコード開発の効率を高めます。

セキュリティ面では、ユーザーごとの 権限ロール と データ分離 を厳格に適用し、アクセス許可のない情報は AI が参照しない設計になっています。また 監査ログ(アクセス履歴)も自動で残るため、コンプライアンス要件を満たしながら AI を活用できます。

SAP は 2025 年中に 400 件以上の Joule 組み込みユースケースを公開する計画です。回答品質とスピードを競争軸に据えた AI エコシステムの拡大を目指しており、Perplexity との統合はその第一歩といえます。将来的には Microsoft 365 など外部プラットフォームとの連携も視野に入れ、リアルタイム意思決定を支える基盤を一層強化していく方針です。

「Perplexity×SAP提携」について一言

SAPは大手製造業を中心に調達、製造、保管、販売まで企業活動の全工程を統合管理する基幹システムです。基幹システムという位置付けを言い訳にした、その堅牢さと引き換えの使いづらさは筋金入りでした。SAPにもコパイロット機能(Joule)がついたことで、情報の出し入れが容易になることはとても評価できます。またPerplexityが入り、外部情報検索をはじめとした幅と質の側面での向上は、この取り組みをより強めることになるでしょう。

開発視点では、SAPのインストール、更新は社運をかけたプロジェクトでした。メンテナンスに金がかかり、昨今のS/4HANAはコンサルを大量投入して炎上必至の案件です。SAP更新の一番のコストは社内政治で、業務変更・すり合わせをコンサル、従業員、システムの3つどもえで詰めていくコミュニケーションコストが主たるものであり、これは解消されません。

一方で、そもそもABAPはSAPのための言語であり、習得者が少ないことを考えれば、コーディングの自動化機能は、広い意味ではSAPの保守に貢献すると考えます。特に、Joule Studioのノーコード環境により、IT部門に依存せずとも業務部門が独自の分析機能を構築できるようになることで、従来IT部門に集中していた小規模カスタマイズ要求を各部門で自己解決できる体制への転換が期待できます。

出所:Perplexity and SAP: Turbocharging Joule with Real-Time Answers for Every Enterprise

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執筆者

慶應義塾大学卒業後、総合化学メーカーを経てデロイトトーマツコンサルティングに在籍。新規事業立ち上げ、M&A、経営管理、業務改善などのプロジェクトに関与。マーケティング企業を経て、株式会社ProFabを設立。ProFabでは経営コンサルティングと生成導入支援事業を運営。

TechTechでは、技術、ビジネス、サービス、規制に関する最新ニュースと、各種ツールの実務的な活用方法について、初心者でも理解できる明瞭な発信を心掛ける。日本ディープラーニング協会の実施するG検定資格を保有。

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