チャットボットの種類と導入の際の選び方

チャットボットとは、企業の顧客対応や業務効率化を支える重要な仕組みです。近年はコーポレートサイトやECサイトを中心に導入が広がり、ユーザーは営業時間に縛られず問い合わせができるようになりました。単なる自動応答にとどまらず、AIを活用して自然な会話を可能にするものから、シナリオ設計に沿って定型的な回答を返すものまで、多彩なタイプが存在します。

ログ型、FAQ型、選択肢型、配信型、処理代行型、辞書型、サポート運用型、雑談型など、それぞれの特徴や強みは導入目的によって大きく異なります。導入を成功させるには、自社の課題を明確にし、適した種類を選び、運用体制を整えることが欠かせません。適切な選定は顧客満足度の向上やコスト削減に直結するため、専門知識を持つ有識者への相談も有効です。

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チャットボットとは

チャットボットとは、人間に代わってコンピューターがテキストや音声を用いて自動的にやり取りを行うソフトウェアのことです。チャットは会話、ボットはロボットを意味し、企業のコーポレートサイトやECサイトに設置されるケースが増えています。

チャットボットを導入する主なメリットは2つあります。第一に、営業時間外でも問い合わせ対応が可能になる点です。ユーザーは任意のタイミングで情報を得られるため、機会損失の抑制や顧客満足度の向上につながります。第二に業務効率化です。チャットボットが一部の問い合わせを担うことで、有人対応の負担を軽減し、コスト削減や生産性向上を実現できます。

一方で、導入には課題もあります。運用を開始するまでにルールやシナリオを設定する手間がかかり、種類ごとの特徴を把握したうえで最適なものを選定する必要があります。

AI搭載型チャットボットと非搭載型

チャットボットは大きく、AI非搭載型とAI搭載型に分けられます。非搭載型はルールやシナリオに基づいて定型的なやり取りを行う仕組みで、構築が容易でシンプルな問い合わせ対応に適しています。一方でAI搭載型は、人工知能による学習機能を持ち、柔軟で自然な対話を実現できる点が強みです。

AI搭載型

AI搭載型は人工知能が顧客の意図を解析し、機械学習によって回答精度を高めるタイプです。自然言語処理技術の進歩により、人間と対話しているような自然な応答が可能で、シナリオ型では難しい抽象的な表現や表記ゆれにも対応できます。過去の会話データを参照して新しい質問に答えるなど、柔軟な対応ができる点も特徴です。

メリットとしては、幅広い質問に対応できること、ユーザー体験の向上、そして有人対応を減らすことによるコスト削減が挙げられます。利用を重ねるほど学習が進み、回答の質が向上する点も強みです。

一方で、導入までに教師データの準備や会話ログの蓄積が必要で、運用開始までに多くの労力と時間がかかります。導入・運用コストが高く、場合によっては専門知識を持つ人材や外部業者の支援が不可欠です。また、運用中も定期的なメンテナンスや精度確認が必要となります。AI搭載型は高度な対応力を備える一方で、運用体制やコスト面でのハードルが高いため、自社の目的や体制を踏まえた慎重な検討が求められます。

AI非搭載型

AI非搭載型(ルールベース型)はあらかじめ設定されたシナリオやキーワードに従って応答します。登録さえされていれば柔軟な返答をすることも可能ですが、登録がなかった場合には対応できないことが多く、表示された選択肢を選びながら最終的な回答にたどり着く形式です。

このタイプは、よくある質問や予約方法など、繰り返し発生する問い合わせの自動化に有効です。構築は比較的容易で、必要な質問と回答を登録するだけで運用を始められるため、導入のハードルが低い点がメリットです。

ただし、イレギュラーな質問には対応できず、会話が機械的になりやすい点がデメリットです。想定外の質問が来るとやり取りが途切れ、顧客がオペレーターに問い合わせ直さなければならないこともあります。その結果、顧客満足度の低下や離脱につながるリスクもあります。

チャットボットの種類

チャットボットは利用目的や仕組みによってさまざまなタイプに分かれます。代表的なものにはログ型、FAQ型、選択肢型、配信型、処理代行型、辞書型、サポート運用型、雑談型などがあります。

ログ型チャットボット

ログ型はAIを活用し、ユーザーとのやり取りを通じて学習を重ねることで回答精度を高めるタイプです。会話量が多いほど精度が向上し、自然でストレスの少ない応答が可能になります。多様で抽象的な質問が多い現場に適しており、オペレーターの負担軽減にも効果的です。ただし、やり取りが少ない環境では十分に成長できない点が課題です。

FAQ型チャットボット

FAQ型は、あらかじめ設定した「よくある質問と回答」をもとに応答するタイプです。ユーザーは膨大なFAQの中から答えを探す手間がなく、チャット形式で素早く必要な情報を得られます。社内ヘルプデスクやコールセンターの補助に導入されるケースが多く、満足度向上やオペレーター負担の削減に役立ちます。ただし、登録されていない質問には対応できません。

選択肢型チャットボット

選択肢型は、あらかじめ用意したシナリオに沿って提示された選択肢を選ぶことで回答に導く仕組みです。入力の手間が少なく、スムーズに解決策へたどり着けるのが利点です。家電の故障対応やログイン方法など、質問が定型的な領域で活用されます。ただし、想定外の選択肢がない場合や選んでも解決できない場合には、顧客満足度の低下を招く可能性があります。

配信型チャットボット

配信型は双方向のやり取りではなく、企業から一方的に情報を発信するタイプです。キャンペーン情報やセールの案内、配送通知などをチャット形式で届けます。メールマガジンに近い機能を持ちながら、リアルタイム性や親近感を高めやすい点が特徴です。社内利用として、会議のリマインド配信などに活用されることもあります。

処理代行型チャットボット

処理代行型は、ユーザーからの入力内容を基に予約やスケジュール調整などの業務を自動で行うタイプです。再配達受付や旅行予約サイトなどで広く活用されています。業務を自動化できるため、効率化やヒューマンエラー防止につながります。オペレーターの負担軽減や離職防止にも寄与する点が特徴です。

辞書型チャットボット

辞書型は、キーワードと回答をセットで登録し、入力内容に含まれる単語を解析して回答を提示するタイプです。特定のキーワードを入力すると、関連情報を即座に返すような仕組みです。ユーザーは求める情報にスムーズにアクセスでき、企業側は入力キーワードの分析から顧客ニーズを把握できますが、一方で、大量のキーワードと回答を登録する手間が大きい点がデメリットです。

サポート運用型チャットボット

サポート運用型はチャットボットと有人対応を組み合わせた仕組みです。初期対応はチャットボットが行い、解決できない場合にオペレーターへ接続します。チャットボットが一次対応を担うことで有人対応件数を減らし、オペレーターの負担や人件費削減につながります。複雑なサービスを提供するコールセンターでの導入に向いています。

雑談型チャットボット

雑談型は、ユーザーとの雑談を通じてロイヤリティや親近感を高めるタイプです。主にAI搭載型で、人間に近い自然な会話を行えます。直接的な収益にはつながりにくいものの、好印象やブランドイメージの向上によって購買やファン化につながる可能性があります。SNSやキャラクター型の対話サービスなどで用いられ、新しいマーケティング手法としても注目されています。

チャットボットを導入する際の注意点

チャットボットを効果的に活用するには、導入前に目的や運用体制を明確にし、導入後も継続的な改善を行う必要があります。

導入目的を明確にする

チャットボットはただ設置するだけでは十分な成果を得られません。具体的な数値目標を明確に定め、解決すべき課題を浮き彫りにすることが最適なチャットボットのタイプ選定にもつながります。

複雑な問い合わせには限界がある

性能が向上しても、すべての問い合わせに対応できるわけではありません。特に選択肢型のようなルールベース型は想定外の質問には対応できません。導入にあたっては、解決できない場合に有人サポートへ接続するなど代替策を用意しておく必要があります。チャットボットの得意・不得意を理解したうえで、有人対応や他システムとの連携を組み合わせることが欠かせません。

運用体制を整える

チャットボットの精度を高めるには、定期的な改善が不可欠です。特にAI型では専門知識を持つ担当者が必要になることも多いため、導入と同時に運用チームや専任担当を設ける体制づくりが求められます。PDCAを回せる環境を整えることが長期的な成果につながります。

効果測定とデータ分析を継続する

チャットボットは導入して終わりではなく、継続的な効果測定と改善が欠かせません。回答率や解決率、コンバージョン数やCVRなどを定期的に確認し、蓄積した顧客データを分析することで、顧客満足度の向上や人的コスト削減の効果を高められます。

チャットボットの選び方

チャットボットの導入効果は、選定段階での適合度に大きく左右されます。ツールごとに機能や費用、操作性が異なるため、自社の目的を明確にしたうえで比較検討することが不可欠です。ただし、自社に最適な選択肢を判断するのは容易ではないため、専門知識を持つ有識者やベンダーへ相談しながら検討を進めることをおすすめします。

目的とユースケースを明確化する

達成したい状態を数値で定義します。例として、よくある質問の直接対応を月100件削減、一次解決率70%など。目的に応じたタイプを選定します。FAQ活用の最大化はFAQチャットボット、既存顧客へのキャンペーン告知は配信型、会話を介した関係構築は雑談型が適しています。

必須機能と連携要件を確認する

自社に必要な機能を優先度付きで列挙します。代表例は自動学習、有人対応へのエスカレーション、レコメンド、聞き返し、多言語対応。海外からの問い合わせが多い場合は多言語対応、オペレーター連携を重視する場合は有人対応連携を重視します。既存CRMやFAQ管理とのAPI連携可否も確認します。

操作性と運用負荷を評価する

日々の運用で発生するシナリオ修正やFAQ更新を担当者が自走できるかを確認します。管理画面の編集性、権限設計、ログ分析のしやすさをチェックし、運用に必要な工数を見積もります。

費用とTCOを見積もる

初期費用とランニングコストを可視化し、契約形態(従量課金・席数課金・MAU課金)も含めてTCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)を比較します。予算が確定している場合は、その範囲内で目的達成確度が高い選択肢を選びます。

サポート体制を確認する

導入時のオンボーディング、運用中の問い合わせ対応、定期レビューや改善提案の有無を事前に確認します。初導入の場合は、設定支援や学習データ整備の支援があるベンダーを選ぶと立ち上げが安定します。

最後に

チャットボットは、顧客体験の向上や業務効率化に直結する一方で、目的の曖昧な導入や誤った種類の選択は十分な成果につながりません。AI型か非搭載型か、ログ型かFAQ型かといった多様な選択肢の中から、自社の課題や目標に合ったものを慎重に見極める必要があります。

導入後も効果測定やデータ分析を行い、運用体制を継続的に改善することで成果を最大化できます。初めて導入する場合や選定に迷う場合は、有識者やベンダーに相談することで、自社に最適な仕組みを選びやすくなります。チャットボットを単なるツールではなく、顧客との関係構築や事業成長を支える戦略的な仕組みとして活用することが、今後の企業競争力を高める鍵となります。

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執筆者

慶應義塾大学卒業後、総合化学メーカーを経てデロイトトーマツコンサルティングに在籍。新規事業立ち上げ、M&A、経営管理、業務改善などのプロジェクトに関与。マーケティング企業を経て、株式会社ProFabを設立。ProFabでは経営コンサルティングと生成導入支援事業を運営。

TechTechでは、技術、ビジネス、サービス、規制に関する最新ニュースと、各種ツールの実務的な活用方法について、初心者でも理解できる明瞭な発信を心掛ける。日本ディープラーニング協会の実施するG検定資格を保有。

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