AIエージェントによるブラウザ操作と利用リスク

ブラウザ操作AIエージェントとは、自然言語の指示を理解してウェブブラウザを自律的に操作する技術です。従来のRPAやスクレイピングでは難しかった非定型の操作や動的な画面にも対応でき、フォーム入力や検索、予約など幅広いタスクを自動化できます。業務効率の向上やユーザー体験の改善に加え、AIが人間の代理としてウェブ上で行動することで、自律性も大きく高まります。

一方で、参照先のページに埋め込まれた悪意ある命令を読み取ってしまうリスクが存在し、情報漏洩やアカウント侵害につながる恐れも指摘されています。利便性とリスクを正しく理解し、適切な対策を講じながら活用していくことが今後ますます重要になります。

目次

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AIエージェントによるブラウザ操作とは

従来はSeleniumなどのツールを利用してブラウザを自動操作するのが一般的でしたが、近年は大規模言語モデル(LLM)を活用したアプローチが普及しています。AIエージェントは自然言語による指示を理解し、実際のユーザーのようにクリックや入力を行うことが可能です。

タブ切り替えやスクロール、クリックなどの基本操作だけでなく、サイト独自のUIやセキュリティプロンプトにも適応できるため、従来のスクレイピングやRPAツールより柔軟性が高いのが特徴です。フォーム入力や検索、予約など幅広い作業を自動化でき、非定型業務にも対応できるようになっています。

AIによるブラウザ操作の利点

AIエージェントは、大量のコードや複雑な実装を必要とせず、最低限の処理を定義するだけで自然言語による操作を実現します。入力や出力の操作、ウィンドウハンドルやタイトルの取得、HTMLやJSONの解析、JavaScriptの実行などを簡単に実装でき、効率的に自動化を進められる点が魅力です。

RPAとの違い

RPAは定型的な業務を効率的に自動化する仕組みですが、設定された手順に沿って動作するため変化への対応が難しいという課題があります。これに対してAIエージェントは自然言語処理や視覚的認識を活用し、サイト構造の変化や非定型業務にも対応可能です。結果として、従来のRPAでは難しかった柔軟な自動化を実現できます。

AIエージェントによるブラウザ操作の重要性

AIエージェントによるブラウザ操作は、単なる自動化手段にとどまらず、業務やサービスの在り方そのものを変える可能性を持っています。大規模言語モデル(LLM)がウェブ環境を直接操作できるようになることで、人間が行っていた幅広い作業を自然言語の指示で任せられるようになります。

まず、業務効率の大幅な向上につながります。これまで人手で対応していたフォーム入力、予約手続き、情報検索といった作業を、AIエージェントが自律的に遂行することで、時間と労力を削減できます。従来のRPAが定型作業に強みを持つのに対し、AIエージェントは変化するウェブ画面や非定型的なフローにも適応できるため、適用範囲が飛躍的に広がります。

次に、ユーザー体験を大きく向上させます。抽象的な要望を自然言語で伝えるだけで、複雑な操作をAIが代行するため、専門的なスキルや知識がなくても高度な処理が可能になります。人間の代理としてウェブを動かすことで、業務支援ツールから日常的なサービス利用に至るまで、幅広い分野で利便性を高められます。

最後に、AIの自律性が飛躍的に高まる点も重要です。ブラウザという汎用的なインターフェースを操作できるようになることで、個別のアプリケーションや専用システムに依存せず、インターネット上の幅広いリソースを直接活用できます。AIは人間のサポート役から、課題解決の主体へと進化します。

AIエージェントがブラウザを操作できることは、業務効率、ユーザー体験、自律性のすべてにおいて大きな意義を持ち、今後の活用領域をさらに広げる鍵となります。

ブラウザの自動操作できるAIエージェント

AIエージェントがブラウザを直接操作できるようになったことで、RPAでは扱いづらい非定型フローや動的UIにも対応できるようになりました。自然言語の指示を理解し、クリックや入力、スクロール、スクリプト実行といった多様な操作を統合的に扱えるため、業務効率と運用の柔軟性が同時に高まります。

ここでは代表的な4つのAIエージェントを取り上げ、それぞれの特徴を整理します。

ブラウザ自動操作エージェントの比較表

エージェント名提供元 / 形態主な特徴強み課題・制約
Cloud BOT Operatorセゾン情報システムズ / 商用クラウドRPAサービス ・HTML構造解析と視覚認識を選択可能・定型業務はRPA、非定型業務はAIに振り分け可能・ノーコードでロボット作成・クラウド環境上で即時実行・商用RPAとAIを統合・環境構築不要で導入が容易・精度と速度を使い分け可能・日本国内中心の提供・プレビュー版のため今後安定性の向上が課題
Browser Useオープンソース / MITライセンス・Playwright+LLM連携・複数タブ管理・カスタムアクション定義・自己修正機能・MCPや独自モデルと統合可能・高い拡張性・オープンソースによる自由な利用・研究・開発者向けに柔軟・安定性はまだ不十分・実運用には追加開発が必要
OpenAI OperatorOpenAI / 研究プレビュー・専用ブラウザを利用・クリック・入力・スクロール操作を実行・支払い操作では承認必須・反復的タスクの自動化・LLM統合で高い理解力・安全性を重視した設計・予約や発注など実務的タスクに強い・現状は米国Proユーザー限定・正式リリース前で情報が限定的
Google Project MarinerGoogle DeepMind / 研究プロトタイプ・テキスト・画像・コード・フォームを理解・複数タスクの並行処理・Teach and Repeat機能・操作プロセスの可視化と介入可能・Chromeとの高い親和性・ユーザー介入と自律性を両立・Gemini/Vertexとの統合予定・限定公開段階・利用範囲や対応地域は拡大中

Cloud BOT Operator

Cloud BOT Operatorは、クラウド型RPA「Cloud BOT」に統合されたAIエージェント機能です。ユーザーが自然言語で指示を出すと、クラウド上の仮想ブラウザが自律的に操作を行い、従来のRPAでは対応しにくかった判断を伴う処理や動的な画面構成にも柔軟に対応します。RPAが得意とする定型業務とAIが得意とする非定型業務を組み合わせることで、自動化の適用範囲が大きく広がります。

  • HTML構造を解析する構造認識モデルと画面を画像として捉える視覚認識モデルを搭載
  • 高速処理・軽量性を重視するECOモード、柔軟性を重視するSmartモードを選択可能
  • 定型作業はRPA、複雑な判断を要する業務はAIに割り振れる設計
  • ノーコードでロボット作成が可能で、クラウド環境上で即座に実行できる
  • プレビュー版が無料公開されており、導入前の検証が容易

Browser Use

Browser Useは、Playwrightと大規模言語モデルを組み合わせたオープンソースのブラウザ操作基盤です。コードベースでの制御を前提にしており、開発者がカスタムアクションや独自のAIモデルを組み込んで利用できます。まだ安定性に課題はあるものの、MITライセンスで公開されているため柔軟な拡張が可能で、研究開発や実験用途で活用が進んでいます。

  • 視覚的認識とHTML解析を組み合わせた要素抽出と操作
  • 複数タブを同時に管理し、複雑な遷移にも対応可能
  • 失敗時に自動リトライする自己修正機能を実装
  • カスタムアクションを自由に定義できる柔軟性
  • MCPサーバーや独自モデルとの統合で自然言語操作も実現可能

OpenAI Operator

OpenAI Operatorは、OpenAIが研究プレビューとして提供するブラウザ操作エージェントです。専用ブラウザを使ってページ閲覧や入力、クリック、スクロールを実行し、フォーム送信や予約、発注などの反復タスクを代行できます。支払いなどの重要操作ではユーザー承認を必須とする設計を採用しており、安全性を重視しています。現在は米国のChatGPT Proユーザー向けに提供されており、将来的にPlus、Team、Enterpriseプランにも展開される予定です。

  • 専用ブラウザを利用し、自然言語による指示で各種操作を実行
  • 支払い操作や個人情報入力ではセキュリティ上の承認を必須化
  • 情報収集やフォーム入力など幅広い反復タスクの自動化を想定
  • 現在は限定提供だが、今後利用範囲が拡大予定

Google Project Mariner

Project Marinerは、Google DeepMindが公開したブラウザ操作エージェントで、Chromeとの親和性を重視した設計です。テキスト・画像・フォームなどを理解して操作計画を立てるマルチモーダル推論を備え、複数のタスクを同時並行で処理できます。さらに、Teach and Repeat機能により一度行った操作を学習し、次回以降自動で再現できます。ユーザーは操作計画や進行状況を可視化でき、必要に応じて介入することも可能です。

  • テキスト・画像・コード・フォームを横断的に理解するマルチモーダル機能
  • 複数タスクを同時並行で処理できる実行環境
  • Teach and Repeat機能による反復タスクの効率化
  • 操作プロセスの可視化とユーザー介入を可能にする設計
  • 将来的にはGemini APIやVertex AIとの統合が予定

ブラウザ操作AIエージェントを利用するリスク

ブラウザ操作AIエージェントは自然言語でブラウザを操作できる利便性を提供しますが、参照するウェブページに埋め込まれた悪意のある命令(プロンプトインジェクション)を読み取ってしまうと、利用者のブラウザやアカウントが攻撃者に悪用されるリスクが生じます。

以下に想定されるリスクを端的に説明します。

特定のサイトへのリダイレクト攻撃者が用意したページへ誘導されると、マルウェアや不正スクリプトをダウンロードさせられる可能性があります。自動化がダウンロードや実行操作を伴う場合は特に危険性が高く、ダウンロード実行の条件確認が重要になります。
ローカルファイルの内容窃取ローカルファイル参照を許していると、エージェント経由でローカルファイルの内容が読み出され、外部に送信される恐れがあります。ローカルリソースへのアクセス制限が不十分な場合、機密ファイル流出の経路になり得ます。
cookieの窃取JavaScript実行によりcookieが取得される可能性があります。認証情報やセッション情報が漏れると、なりすましやセッション乗っ取りに直結します。
表示中の要素の窃取メールやウェブアプリ上に表示される ID や口座番号などの機密情報が、ページ内容の読み取りを通じて外部に送信されるケースがあります。表示要素の扱いに注意が必要です。
非表示要素の窃取表示されない要素に内部パラメータが含まれる場合、読み取られて悪用される可能性があります。可視化されない要素も情報漏洩の対象になります。
script内変数の窃取ページ内スクリプトが保持する変数に機密データが格納されている場合、スクリプト領域の解析や変数読み取りを通じて秘密情報が漏れる恐れがあります。画面表示外の情報も脅威になり得ます。
認証情報の漏洩自動ログインのためにエージェントへ渡したユーザー名やパスワードが、操作後にコンテキストとして残留すると流出する危険があります。認証情報の扱いは最小限にし、処理後の消去確認が必要です。
パスワードリセットによるアカウント侵害エージェントがパスワードリセットの操作を行うと、攻撃者側でリセット手続きを誘導し、アカウントを奪取されるリスクがあります。本人確認フローや多要素認証の有無が重要な防御要素になります。

上記は代表的な攻撃手法であり、どのケースでも共通して必要なのは参照元の検証と最小権限の原則です。ブラウザ操作を許可する範囲を厳格に限定し、外部ページの命令を無条件で実行しない設計、機密情報へのアクセスを防ぐポリシー、操作ログの監査を組み合わせることで、被害の発生確率を低減できます。

最後に

AIエージェントによるブラウザ操作は、業務やサービスのあり方を根本から変える可能性を秘めています。高度な自動化と直感的な操作を両立させることで、専門知識を持たない人でも効率的に複雑な処理を実行できるようになります。

一方で、プロンプトインジェクションや認証情報の漏洩といったセキュリティリスクが存在するため、安全性を確保する取り組みは欠かせません。参照元の信頼性検証やアクセス権限の最小化、ログ監査の徹底などを組み合わせることで、利便性と安全性を両立させることが可能です。今後は業務効率化の武器としての活用だけでなく、リスクマネジメントを前提にした運用が、AIエージェントを活かすための前提条件になると考えられます。

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執筆者

慶應義塾大学卒業後、総合化学メーカーを経てデロイトトーマツコンサルティングに在籍。新規事業立ち上げ、M&A、経営管理、業務改善などのプロジェクトに関与。マーケティング企業を経て、株式会社ProFabを設立。ProFabでは経営コンサルティングと生成導入支援事業を運営。

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