小規模言語モデル(SLM)とは?代表的なSLMと利用メリット

小規模言語モデルとは、大規模言語モデルと比較してコンパクトな構造を持つ自然言語処理のAIモデルです。数百万から数十億規模のパラメータで構成され、限られた計算資源でも運用できる点が特徴です。こうしたモデルは、スマートフォンやIoTデバイスなどのエッジ環境で動作しやすく、リアルタイム性やプライバシーの確保が求められる用途に適しています。特定分野への最適化や軽量化技術の進化により、多様な業務領域での実装が現実味を帯びています。

企業版生成AI導入アプローチ
目次

小規模言語モデル(SLM)とは

小規模言語モデル(SLM)とは、大規模言語モデル(LLM)に比べてパラメータ数が少なく、軽量かつ効率的に動作する生成AIの一種です。数億から数十億のパラメータで構成され、リソースを抑えながら高い性能を発揮できる点が特徴です。エッジデバイスやローカル環境でも動作可能なため、リアルタイム処理やプライバシーが求められる場面で活用が進んでいます。高コスト・高負荷なLLMの代替として、注目を集めているモデルです。代表的なモデルとして、MicrosoftのPhi-3やGoogleのGemmaが挙げられます。

SLMは、LLMと比べて計算資源の消費が少なく、エッジデバイスやモバイル端末など、リソースが限られた環境でも動作可能です。クラウドを介さずローカル環境での運用が可能な点はプライバシー保護の観点からも評価されています。リアルタイム処理にも適しており、推論を高速に行えるため、応答速度が重要なアプリケーションにも向いています。

小型化を実現するために用いられる技術には知識蒸留、量子化、剪定などがあります。知識蒸留は、大規模モデルの学習結果を小規模モデルに移し替える方法であり、性能を維持しつつ軽量化を図れます。量子化は計算の精度を下げて処理を簡略化する技術であり、剪定は不要なパラメータを除去してモデルサイズを削減する手法です。

SLMは、特定領域への適用に向いており、ファインチューニングを通じて目的に応じたカスタマイズがしやすいという利点があります。医療や法律のような分野では、高度な専門知識とセキュリティを要するため、ローカルで動作可能なSLMの導入が検討されています。LLMほど汎用性は高くありませんが、用途を絞ることで効率的な運用が可能です。

SLMという用語は2024年頃から一般化し始めましたが、同様のコンセプトは以前から存在し、特にMicrosoftのPhiシリーズが登場して以降、名称としての普及が進みました。実際にはSLMという言葉よりもローカルLLMという表現が使われることも多く、概念としては重なっています。

性能面でもSLMは進化しており、Mixtral 8x7BやLlama 2-70Bといった中規模モデルが、大規模モデルと同等かそれ以上の結果を出す事例も増えています。サイズが小さいからといって性能が劣るとは限らず、タスクに応じた最適化によって、高いパフォーマンスを発揮できる点も魅力です。

また、Sakana AIのように、複数の小型モデルを群体として活用する試みも始まっており、LLMとは異なる方向性のアプローチが進んでいます。このようにSLMは、生成AIの分野において、単なる代替手段ではなく、異なる価値を持つ選択肢として位置づけられています。今後、特定領域での高性能化やコスト効率、セキュリティ要件を重視する場面で、さらに普及が進むと考えられます。

小規模言語モデルと大規模言語モデルの違い

小規模言語モデル(SLM)と大規模言語モデル(LLM)は、用途や構造において明確な違いがあります。LLMは数百億から数兆のパラメータを持ち、膨大な知識を学習し、創造性や汎用性が求められるタスクに対応できます。ChatGPTなどがその代表例です。LLMはインターネット上の幅広い情報を学習し、多様な問いに対応する能力を持っています。

一方、SLMは数百万から数十億のパラメータで構成され、特定の領域に特化した設計が可能です。汎用性は限定されますが、その分軽量で高速に動作し、リソースの制約がある環境でも運用可能です。企業内での機密情報処理やオフラインでの使用といった場面に適しています。クラウドを介さずローカルで稼働するため、セキュリティやプライバシー面での利点もあります。

学習データの範囲にも違いがあります。LLMは幅広い情報を対象に学習するのに対し、SLMは用途に応じた限定的なデータを用いることで、学習効率と精度のバランスを最適化します。特定領域に絞ることでデータ収集や学習にかかる負荷を抑えることができ、リソースが限られた状況でも実用的なモデル構築が可能です。SLMでは、学習範囲を狭めながらも回答品質を保つアプローチへの関心が高まっています。

SLMとLLMの違い

SLMLLM
パラメータ数数百万~数十億数百億~数兆
モデルのサイズ軽量大型
処理速度高速計算リソースに依存
リソース要件CPUや小規模GPUでも可大量のGPUが必要
対応範囲特定分野に特化幅広いタスクに対応
学習データの範囲限定的膨大
セキュリティ高い(ローカルでの運用が可能)低め(クラウド依存が多い)
利用シーンエッジデバイス、機密情報処理、オフライン環境オンラインAIサービス、汎用チャットボット

小規模言語モデルを使うメリット

開発コストの削減

SLMはモデルサイズが小さいため、必要なGPU性能やエネルギー消費が少なく、開発にかかる設備投資や人件費を抑えられます。LLMに比べて高性能な計算環境を用意する必要がなく、全体のコストを大幅に削減できます。

トレーニング時間の短縮

SLMは学習すべきパラメータが少なく、トレーニングにかかる時間が短いことも利点です。LLMでは数十日から数ヵ月を要することがありますが、SLMは数日で完了することも可能です。開発サイクルの短縮につながります。

ハルシネーションの防止

SLMは特定分野に特化した学習を行うため、不要な情報を学ばず、対象領域の精度を高めやすくなります。学習データが限定されることでLLMで問題となりがちなハルシネーションのリスクを低減できます。特定の目的に限定した出力が求められる場合に有効です。

セキュリティとプライバシーの担保

SLMはクラウドを介さず、社内環境やローカルでの運用が可能です。医療や法務など機密性の高い情報を扱う場面において、外部クラウドを利用せずに処理できる点がセキュリティ上の大きな利点となります。

オンプレミス環境やエッジデバイス上で動作可能

SLMは軽量なため、サーバーを必要とせずオンプレミス環境やエッジデバイスに直接導入できます。スマートフォンやIoTデバイスでの利用にも適しており、インターネット接続がない環境でもAI機能を活用できます。応答速度の向上やネットワーク依存の低減にもつながります。

代表的な小規模言語モデル一覧

Apple Intelligence

Apple Intelligenceは、2024年7月にAppleが発表したSLMで、iOS 18.1、iPadOS 18.1、macOS Sequoia 15.1から提供開始されました。テキストの生成や校正、画像や絵文字の生成、Siriの機能改善など、多岐にわたる機能を提供します。デバイス内の個人情報を扱うため、セキュリティ保護にも重点を置いています。

参考:https://www.apple.com/jp/apple-intelligence/

Copilot

Copilotは、Microsoftが開発した生成AIツールで、Microsoft製品と組み合わせて使用できる点が特徴です。Wordでの議事録や企画書の自動作成、PowerPointでのスライド自動生成など、多様なシーンで活用されています。

参考:https://copilot.microsoft.com/

Gemini Nano

Gemini Nanoは、2023年12月にGoogleが発表したマルチモーダル生成AIモデル「Gemini」の軽量版です。クラウド接続を必要とせず、デバイス上でローカルに動作します。Google PixelスマートフォンやGoogleアプリに導入されており、レコーダーアプリによる音声の要約機能やオフラインでのテキストエディタ機能を提供しています。

参考:https://deepmind.google/technologies/gemini/nano/

Gemma

Gemmaは、Googleが2024年2月に公開したSLMで、同社のAIモデル「Gemini」と同じ技術を用いています。20億、70億、90億のパラメータ規模で利用可能で、ノートPCやワークステーション、Google Cloud上でも実行可能です。

参考:https://ai.google.dev/gemma

GPT-4o mini

GPT-4o miniは、OpenAIの最新モデル「GPT-4o」の小型版で、コスト効率に優れています。テキストと画像の両方の入力を受け入れ、テキスト出力を生成します。

参考:https://openai.com/ja-JP/index/gpt-4o-mini-advancing-cost-efficient-intelligence/

Granite

Graniteは、IBMのLLM基盤モデルの主力シリーズで、20億および80億のパラメータを備えた事前トレーニング済み・インストラクション・チューニング済みの基本モデルが含まれます。

参考:https://www.ibm.com/jp-ja/granite

OpenELM

OpenELMは、2024年4月にAppleが発表したオープンソースのSLMです。最小の270Mモデルは2.7億パラメータで、スマートフォンやタブレットなどの小型デバイスでも快適に動作します。Apple独自の「CoreNet」ライブラリデータを用いてトレーニングされており、バイアスの少ない公平な回答生成を実現しています。

参考:https://machinelearning.apple.com/research/openelm

Phi(ファイ)

Phiは、Microsoftが開発した小規模言語モデルのスイートです。Phi-2は27億のパラメーターを持ち、Phi-3-miniは38億のパラメーターを備えています。Phi-3-miniは長いコンテキストウィンドウを持ち、大規模なテキストコンテンツの分析・推論が可能です。将来的には70億パラメーターのPhi-3-Smallも予定されています。

参考:https://azure.microsoft.com/en-us/blog/empowering-innovation-the-next-generation-of-the-phi-family/

参考:小規模言語モデルの進化!SEO対策での活用可能性について

Mistral AI

Mistral AIは、2023年に設立された急成長中のAIスタートアップです。同社のSLMは、数学、コード生成、推論の分野で優れた性能を示しています。

参考:https://mistral.ai

Ministral

Ministralは、Mistral AIによって開発されたSLM群の総称で、「Ministral 3B」や「Ministral 8B」などが含まれます。Ministral 3Bは30億パラメータ、Ministral 8Bは80億パラメータを備えており、数学・一般常識・多言語タスクなどで優れた性能を示します。特にMinistral 8Bは、スライドウィンドウ型の注意メカニズムにより、高速な推論処理を実現しています。

参考:https://mistral.ai/news/ministraux

SakanaAI

サカナAIは、日本発の生成AIスタートアップ企業で、生物の進化の仕組みを模倣した革新的な開発手法を採用しています。日本語など特定の言語に対応したSLM開発に注力しており、複数の画像について日本語で質疑応答できるSLMを公開しています。

参考:https://sakana.ai/

最後に

小規模言語モデルは、性能と効率を両立させたAIの新たな選択肢です。大規模な汎用モデルとは異なり、限られた用途に特化しやすく、必要な計算資源も少なくて済みます。医療や法務などの機密性が高い分野や、オフラインでの利用が求められる現場において有効性が高まっています。今後もモデル設計や運用技術の進展により、さらに多くの場面で活用されることが見込まれています。効率と実用性を重視する環境において、重要な役割を果たす存在です。

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執筆者

慶應義塾大学卒業後、総合化学メーカーを経てデロイトトーマツコンサルティングに在籍。新規事業立ち上げ、M&A、経営管理、業務改善などのプロジェクトに関与。マーケティング企業を経て、株式会社ProFabを設立。ProFabでは経営コンサルティングと生成導入支援事業を運営。

TechTechでは、技術、ビジネス、サービス、規制に関する最新ニュースと、各種ツールの実務的な活用方法について、初心者でも理解できる明瞭な発信を心掛ける。日本ディープラーニング協会の実施するG検定資格を保有。

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