ResNetとは、2015年にMicrosoft Researchによって発表された深層学習モデルで、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の一種です。従来のCNNでは層を深くすることで性能が向上する一方で、勾配が伝わりにくくなる勾配消失という問題がありました。ResNetは、残差ブロックとスキップ接続という設計を導入することでこの課題を克服し、非常に深いネットワークでも安定した学習を可能にしています。
ResNetは画像認識をはじめとしたコンピュータビジョン分野で圧倒的な成果を挙げ、医療や製造などの多様な領域へと応用が広がっています。構造がシンプルで拡張性も高く、転移学習への適用や実装のしやすさといった実用面でも優れた特徴を備えています。
ResNet(レジネット)とは
ResNet(レジネット、Residual Neural Network、残差ネットワーク)とは、画像認識に用いられるディープラーニングモデルで、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の1つです。2012年のAlexNet(画像認識のためのディープラーニングモデル)以降、画像認識ではさまざまな畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、CNN)が登場してきました。2015年にMicrosoft Researchが発表したResNet(レズネット)は、画像認識技術において最も成功したモデルの1つとされています。

当時、CNNの層を増やすことで、より高度な特徴を抽出できると考えられていました。しかし、層を深くすると勾配消失が起きやすくなり、学習が進まなくなるという問題がありました。ResNetはこの課題を解決し、非常に深い構造でも学習可能なモデルを実現しています。
ResNetの特徴は、スキップ接続と呼ばれる構造にあります。これは、ある層の出力に入力をそのまま加算する仕組みで、残差関数を学習するように設計されています(通常は出力層から順番に残差学習をしていくが、途中過程の層に残差情報を挿入できる)。この構造により、勾配が伝わりやすくなり、深いネットワークでも安定した学習が可能になります。
解決した問題:勾配消失と学習の難しさ
CNNの層を深くすることで精度が向上すると期待されていましたが、実際には勾配消失の影響により、学習がうまくいかなくなるという課題がありました。20層を超えるネットワークでは、誤差が逆伝播されず、初期層がほとんど学習できなくなります。また、パラメータの増加によって学習時間も長くなる傾向がありました。
ResNetは残差ブロックというシンプルな構造を導入し、スキップ接続を通じて入力をそのまま出力に加えることで、勾配の流れを維持しました。この工夫により、50層から152層といった非常に深いネットワークでも学習が進むようになりました。
ResNetは勾配消失を完全に解消したわけではありませんが、伝播の問題を大きく緩和するアプローチとして機能しています。
ResNetとDenseNetが生まれた背景
コンピュータの進歩により、深いネットワークの訓練が可能になり、CNNによる画像認識は大きく進展しましたが、層を深くすることで勾配消失の問題が生じやすくなり、学習が困難になるという課題がありました。
こうした課題に対応するため、全ての層に情報が届きやすい構造が求められるようになり、ResNetが開発されました。100層を超えるネットワークでも安定した学習が可能となり、精度の向上につながり、その後、ResNetの設計をさらに発展させたDenseNetも登場しています。
ResNet導入のメリット
大規模なシステムへの応用しやすさ
ResNetは多層構造でも高精度を維持できるため、大規模な画像認識システムに適しています。従来のモデルでは層が深くなると精度が低下する傾向がありましたが、ResNetは残差ブロックとスキップ接続によって、深層でも安定した学習を実現できるため、大規模な画像認識タスクにも効果的に活用されています。
高速処理ができる
ResNetは構成が比較的シンプルであるため、必要な計算リソースが少なく済みます。残差接続によって勾配が安定的に伝わることで学習速度も向上し、効率的なトレーニングが可能になり、システム全体の処理が高速化され、リアルタイム性が求められる自動運転や監視システムなどの分野でも活用が進んでいます。
拡張性が高い
ResNetは特徴抽出器として高い性能を持っており、セグメンテーションのような他のタスク向けのネットワークにも柔軟に組み込むことができます。たとえば、U-Net(画像内の物体がどこにあるかを推定するためのCNNの一種)では本来独自のエンコーダーを使っていましたが、ResNetをエンコーダーとして用いることで精度が向上します。こうした構成はU-Net with ResNet backboneと呼ばれています。
FCN(Fully Convolutional Network)、DeepLab、PSPNet(Pyramid Scene Parsing Network)といった他のセグメンテーションモデルにも、ResNetはバックボーンとして広く利用されています。
汎用性が高い
ResNetはデータセット固有の特徴に過度に依存せず、より一般的な構造を学習しやすい設計となっているため未知のデータに対しても高い汎化性能を示し、多様なタスクへの適用が可能です。画像分類、物体検出、セグメンテーションなど、幅広いコンピュータビジョン分野で高精度な認識を実現します。
転移学習への応用
ResNetは転移学習にも適しており、既存の学習済みモデルを別の関連タスクに応用しやすい特徴があります。たとえば、ImageNet(大規模な画像データセット)で事前学習されたResNetの重みを用いることで、小規模なデータセットに対しても少ない学習データで高い精度が得られ、計算リソースを大幅に節約できます。

実装しやすい
ResNetは基本的な残差ブロックの繰り返しで構成されているため、構造が明確で再利用性が高く、実装が容易です。PyTorch、TensorFlow、Kerasなどの主要なフレームワークではResNet-18、ResNet-50、ResNet-101といったバリエーションが用意されており、モデルの定義や重みの読み込み、推論の実行も統一されたAPIで行えます。一度実装すれば他のタスクやシステムにも展開しやすく、開発の効率向上にもつながります。
ResNet導入の課題
高い計算リソースが必要
ResNetを50層や150層といった深い構造で運用する場合、学習や推論に多くの計算リソースが必要です。特に大量のメモリや高性能なGPUを必要とするため、リソースが限られる中小企業や小規模プロジェクトでは導入の障壁となることがあります。また、層が深くなることでストレージやメモリへの負荷も増し、モバイル端末やエッジデバイスなど、ハードウェアに制約がある環境では実用化が難しくなる場合があります。
過学習のリスク
ResNetは非常に多くの層を持つため特定の学習データに対して過度に適合する過学習が起こりやすくなります。特に小規模なデータセットを扱う場合、モデルがデータの特徴を過剰に覚えてしまい、未知のデータに対する汎用性が低下します。
過学習は表現力の高いモデルで起きやすく、ResNetのようにパラメータ数が多い構造ではそのリスクが高まるため、正則化やドロップアウトといった手法を取り入れ、過学習を防ぐ工夫が求められます。
モデル理解の難しさ
ResNetは多層構造であるうえ、スキップ接続や残差ブロックといった複雑な要素を含むため、内部の挙動や学習過程を直感的に理解するのが難しい傾向があります。
この性質は、モデルの説明可能性が求められる分野、たとえば医療診断や金融などの分野において課題になることがあります。予測の根拠を明示する必要がある場合には、より解釈しやすいモデルとの比較や補足的な分析が求められます。
ResNetの活用事例
コンピュータビジョン
ResNetは画像分類、物体検出、セグメンテーションなど、コンピュータビジョン領域で広く活用されています。たとえば、自動運転における障害物検知、監視カメラの映像分析、画像検索エンジンの精度向上、顔認証システム、衛星画像の解析、動画コンテンツのフレーム単位認識などで用いられています。
物体検出では、Faster R-CNNやMask R-CNNなどのフレームワークにおいてResNetがバックボーンとして採用されています。セグメンテーションタスクでは、DeepLabv3などのモデルにも組み込まれています。
参考:https://arxiv.org/abs/1512.03385
医療用画像解析
ResNetはMRIやCT画像に含まれる腫瘍や異常領域を検出する目的で医療現場でも使用されています。疾患の早期発見や診断の効率化を目的とした支援システムに導入され、医療の精度とスピードの向上に寄与しています。
たとえば、肺がんの検出、脳の構造解析、糖尿病性網膜症のスクリーニングなどで、ResNetベースのモデルが活用されています。
参考:https://www.nature.com/articles/s41746-020-00376-2
生物学的データ解析
ResNetは生物学や薬学領域でも応用されています。タンパク質構造予測ではディープラーニングによってアミノ酸配列から立体構造を推定するモデルに用いられています。また、遺伝子発現解析においても、ResNetを通じて膨大な遺伝子データから重要な発現パターンを抽出し、病態の理解や治療戦略の立案に貢献しています。
参考:https://www.nature.com/articles/s41586-019-1923-7
製造業における異常検知
製造業ではResNetが製品の外観検査や異常検知のタスクに利用されています。産業用カメラで撮影された映像をもとに、欠陥や不良品を自動で検出するシステムにおいて、ResNetは高い識別精度を発揮しています。
特に金属部品や電子基板などの細かい異常の検出を要する場面では、従来の手法では難しかった微細な欠陥の分類をResNetが可能にしています。
参考:https://ieeexplore.ieee.org/document/9099060
最後に
ResNetは深いネットワーク構造を持ちながらも学習が安定して進む設計により、画像認識モデルとして高い評価を得ています。従来の深層学習モデルで生じていた勾配消失や学習の停滞といった問題を、スキップ接続によって緩和し、より高精度かつ高速な処理を可能にしました。その結果、大規模システムへの応用やリアルタイム性が求められる分野でも広く使われるようになりました。
実装のしやすさや他モデルへの拡張性、転移学習への親和性などから、研究用途にとどまらず、ビジネスや社会インフラの中でも重要な役割を果たしていますが、一方で計算コストや過学習のリスク、解釈性の難しさといった注意点も存在します。課題を考慮して設計・運用することでResNetの価値は今後も広がり続けていきます。