AI技術が急速に普及する一方で、契約内容の曖昧さや情報管理の不備が原因でトラブルが相次いでいます。こうした状況を踏まえ、経済産業省は事業者が安全にAI技術を導入できるよう、新たな契約チェックリストを公表しました。このチェックリストは、詳細な条項レベルでのチェックリストを提供しており、AIに関連する契約でのリスクを抑えつつ、AIサービスの導入効果を最大限に高めるための重要なガイドラインとなっています。
AIの利用・開発に関する契約チェックリストとは
経済産業省はAI技術の導入時に企業が抱える契約上の課題を解決するため、「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」を策定しました。このチェックリストは、企業の法務担当者だけでなく、契約実務に詳しくないビジネス担当者でも利用しやすい内容となっています。提供するデータの利用範囲や、AIが生成した成果物の利用条件を明確にすることで、当事者間のリスクや利益の分配を適切に行うことが目的です。
AIシステムは大きく分けて「インプット」、「AIモデル」、「アウトプット」の3つの要素で構成されます。インプットは、カメラやマイクなどのセンサー、プロンプトなどのテキストデータ、ウェブ掲載情報など様々な形態で提供されます。これらの情報がAIモデルに入力されることで処理され、情報端末や機械的動作を行うアクチュエーターを通じてアウトプットが生成されます。AIモデルは開発時だけでなく、システム実装時やサービス利用時にも継続的に改善されていくため、契約においても柔軟で適切なルール設定が必要となります。

契約締結時には、まず提供するデータ(インプット)の種類、提供方法、利用範囲、第三者への提供制限、権利の帰属を明確にする必要があります。さらに、AIが生み出した成果物(アウトプット)の具体的な特定や提供方法、利用条件、第三者への提供の可否、権利の帰属を契約で明確に定めることも重要です。また、データや成果物から派生する中間生成物や派生的成果物についても、権利の帰属や取り扱いを契約上明確にしておくことが望ましいです。こうした明確化が契約後のトラブル防止につながります。チェックリストでは、明確化すべき条項について細分化しており、こちらの図解(p.9)で対象となる条項を確認した上で、個別ページでチェック項目を見にいく、という使い方ができます。

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「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」について一言
2024年4月に発表された「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」に続き、AI活用に関する実務レベルの具体的なガイドラインが経済産業省から公表されました。契約チェックリストの策定は大きな進歩ですが、実際の契約現場には依然として課題があります。AIサービスは技術的に複雑で、契約書の整備だけでなく、契約後のベンダと利用者のコミュニケーションが重要です。
若干冒頭の整理が難しく感じる部分もありますが、p.9の条項全体像と個別ページを往復しながら確認することで、網羅的に契約条項の作成・チェックを行える内容となっています。全体で約40ページと内容も充実しているため、読み物としてではなく、実際に契約実務に着手する際の辞書的な使い方が適していると思います。