ボストン コンサルティング グループ(BCG)が発表した最新の調査によると、2025年には世界の企業の3社に1社がAIに2,500万ドル以上を投資する予定であることが分かりました。特に日本企業の投資意欲は高く、約半数が同額以上を投じる計画を立てており、他国を上回る積極性を示しています。投資内容の分析もあり、先進企業が基幹業務の再構築や新規価値創出分野で案件を限定して実施しているのに対し、一般的な企業では生産性改善分野で案件を分散して推進していること、それが経営インパクトへの影響に差をつけているという主張もあります。
「From Potential to Profit: Closing the AI Impact Gap」の概要
2025年には世界の企業の3社に1社がAIに2,500万ドル以上を投資する計画を立てていることが明らかになりました。特に、日本企業における投資意欲は高く、約半数が同額以上をAIに投資予定です。この割合は他国と比較して最も高く、日本企業のAIへの関心の高さが際立っています。

調査では、AIで成果を上げている「AI先進企業」と、そうでない企業の投資アプローチの違いも明らかになりました。AI先進企業は、AI投資の80%以上を基幹機能の再構築や新たな価値創出に充てています。一方、その他の企業は投資の56%を生産性向上を目的とした小規模な取り組みに充てており、結果としてAIの効果が限定的となっています。


また、AI先進企業は明確なKPIを設定し、売上高や利益への影響を厳格にモニタリングしていますが、調査対象企業の60%は、AIの財務的な価値創出を測定するためのKPIを定義できていないという課題が浮き彫りになりました。

さらに、AI先進企業は優先的に取り組むAIユースケースを平均3.5件に絞っているのに対し、他の企業は6.1件と分散しています。この集中投資戦略により、AI先進企業は他社の2.1倍のROI(投資利益率)を達成しています。

調査では、AIエージェントの活用に関する経営層の意向も明らかになりました。AIエージェントとは、データ分析やシステム連携を通じて人間の介入を最小限に抑えつつ業務を遂行する自律型AIシステムを指します。全体では67%の経営層が導入を検討しており、日本ではその割合がさらに高く、72%が何らかの形での活用を検討しています。これは、AI技術がビジネスの効率化だけでなく、組織の競争力を向上させる重要な要素であり、企業の成長戦略の中核として位置付けられています。

AIの導入が進む中で、人員削減の懸念も取り沙汰されますが、調査ではAIによる人員削減を計画する企業は7%にとどまることが分かりました。むしろ、68%の企業が従業員数を維持しながら、AIによる生産性向上と既存人材のアップスキリングに注力しています。しかしながら、従業員の4分の1以上にアップスキリングを実施した企業は全体の3分の1未満にとどまり、進捗は限定的です。

BCGのデジタル専門組織「BCG X」のマネージング・ディレクター&パートナーである中川正洋氏は、日本企業のAI投資に関する積極的な姿勢を評価する一方で、「今後は実際に価値を創出することがより重要になる」と指摘しています。そのためには、①投資を分散させず限られたユースケースに集中すること、②KPIを設定しモニタリングを強化すること、③従業員のアップスキリングを推進することが不可欠であるとコメントしています。
「From Potential to Profit: Closing the AI Impact Gap」について一言
とても示唆に富んだ論考でした。AI投資やエージェントに関する関心についてはその通りだと思いますが、特に興味深いのは企業の投資対象の分析とKPI管理に関する部分でした。世の中が生成AI、AIエージェントというバズワードに背中を追いかけられ、トレンドにおいて行かれる恐怖もありつつ様々な取り組みを五月雨式に進めている中、「企業活動なのだから価値基準で施策を判断しよう、インパクトの大きいものからやろう」とよく考えると当たり前なことを言ってくれています。確かに盲目的にAI導入を進めている側面も強いので、こうしたやや牽制のスタンスはあってもいいとは思います。
一方で、AI導入といった場合に、”深く狭く”と”浅く広く”という戦法のいずれも許容されると思っており、またAIによる価値改善がどこまでできるのかは技術の急速な発展も影響し、「よく考えよう。大事なことからやろう」という論法はややクラシックな印象を受けることもあります。とはいえ、”考える”ということと”動く”ことは2択の選択しではないので、AI活用の文脈ではよりスピーディに”考える””動く”を回していく推進方法が理想なのではないかと思います。