欧州連合(EU)のAI規制の中核を担う汎用AI規則(General-Purpose AI Code)の第2版が公開されました。この文書は、AIモデルの開発者や提供者がAI法(AI Act)への対応を支援する行動規範としての役割を果たします。今回の改訂版では、透明性、著作権、システミックリスクへの対応に重点が置かれており、技術進化に伴う規範の柔軟性と具体性がさらに強化されています。
General-Purpose AI Code(2版)の概要
汎用AI規則(General-Purpose AI Code)は、EUが策定したAI法(AI Act)に基づく行動規範です。AI法は、AIシステムのリスクレベルに応じて規制を定める包括的な法律で、2025年8月から汎用AIモデルに関する新ルールが適用されます。汎用AI規則は法的拘束力はありませんが、遵守することでAI法に準拠していると推定されるため、AI開発者にとって実務的なガイドラインとなります。
初版は2024年11月14日に公開され、多くのステークホルダーの意見を反映した第2版が2024年12月19日に発表されました。第2版は、約1,000人のステークホルダー(EU加盟国の代表者、国際的なオブザーバーを含む)が参加するワーキンググループとプロバイダーワークショップ、初版に対する354件の書面フィードバックと多くの口頭意見、AI法に基づく欧州AI委員会(AI Board)や欧州議会の合同ワーキンググループ、との協議を経てアップデートされています。
2025年1月13日から17日にかけて、リスク評価や技術的リスク軽減に関するワーキンググループ会合を実施、ワークショップでの意見交換やステークホルダーからの書面フィードバックの収集があり、2025年2月17日に第3草案が発表される予定です。
General-Purpose AI Code(2版)の内容
第2版では、透明性、著作権、システミックリスクに関する規範が詳細化されました。以下は原文の章構成に忠実な要約ですが、「システミックリスクを伴うGPAIモデルのプロバイダーによるコミットメント」はEU市場に重大な影響を与える可能性があるプロバイダーのことを指します。要件はいくつかありますが、具体的にはモデルの訓練に使用された計算量が浮動小数点演算で10^25を超えるケースなど、OpenAIなど大規模言語モデルを開発する企業の多くが該当することになります。システミックリスクに関する規範はこちらを指します。一方で、「GPAIモデルのプロバイダーによるコミットメント」はシステミックリスクを伴う一部のプロバイダー以外に広く適用されるコミットメントを指します。第2版では、各コミットメントについて、目標、具体的措置、KPIなどの要素が定義されたことに加え、技術の進化に対応可能な規範へとより柔軟な表現となりました。
GPAIモデルのプロバイダーによるコミットメント
- 透明性: モデルの機能や限界、トレーニングデータに関する情報を文書化し、モデル使用者がAI法を遵守できるよう支援。
- 著作権: トレーニングデータの著作権を尊重し、適切なポリシーを策定および実装。
システミックリスクを伴うGPAIモデルのプロバイダーによるコミットメント
- リスク評価と分類: モデルのライフサイクル全体を通じて、システミックリスクを特定し、評価。
- 技術的リスク軽減: サイバーセキュリティやインシデント報告を含むフレームワークの構築。
- ガバナンスリスク軽減: 内部告発者の保護や外部専門家によるリスク評価の実施。
- 透明性強化: リスク評価フレームワークやモデルレポートの公開。
「General-Purpose AI Code (2版)」について一言
法規制については日本国内においても2025年内の動きがありそうなので、取り上げてみました。欧州では日米と異なり生成AI黎明期から法規制に乗り出しており、既に段階的に施行がされている欧州AI法に加え、行動規範レベルの文書も上述の通りかなり設計が進んでいる状態です。
セキュリティの分野では、EU一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)という個人情報の取り扱いに関する規則が2018年5月25日から施行されています。GDPRは欧州域内の企業を対象にしたものですが、日本国内でもこのルールを踏襲し、同水準の厳格さで個人情報の取り扱いを運用している企業も多くあります。AIに話を戻すと、日本国内の法規が構築中であることもあり、先行する欧州規制の考え方が一部下敷きになる場合に備えて、欧州法規についても理解を持っておく意味はあるかと思っています。
出所:Second Draft of the General-Purpose AI Code of Practice published, written by independent experts