AI(人工知能)は、私たちの日常生活やビジネスを根本的に変える技術として注目されています。AIの歴史は、1950年代のアラン・チューリングによる概念の提唱から始まりました。当初はコンピュータが人間のように考えることを目指した研究が進められ、その後、数々のブームと冬の時代を経て発展してきました。
AIは、機械学習やディープラーニングなどの技術の進化により、エキスパートシステムシステム、自然言語処理、画像認識など多岐にわたる分野で活用されています。今日のAI技術は、ビッグデータを活用して高度な意思決定を行うことが可能になり、ビジネスや医療、自動運転など、様々な場面で応用が広がっています。
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AI(人工知能)の歴史
AI(人工知能)とは、人間を模倣し、学習、推論、判断、認識などの能力をコンピュータで実現する技術のことをさします。従来のコンピュータとは大きく異なり、過去のデータを基に自身で学習し、課題解決や意思決定を行うことができます。そんなAIの歴史を紐解くと、最初の記録は紀元前400年の自動機械(オートマトン)と呼ばれる機械の鳩だといわれています。その後も15世紀にレオナルド・ダ・ヴィンチによる人型のオートマトンが制作された記録はありますが、いわゆるAIという言葉が生まれ、本格的に研究されるようになったのは1950年代に入ってからです。
その意味ではAIの歴史は約70年ありますが、技術の発展と共にAI研究が活発になるAIブームと、研究が下火になる冬の時代を繰り返し、現在はChatGPTの台頭もあり、新しいAIブームに入っているといえます。
日本でのAI研究は、1982年から1992年に実施された国家プロジェクト、第五世代コンピュータ・プロジェクトですが、世間一般的にAIが浸透し、注目されるようになったのは2010年以降です。2000年以降にインターネットが大きく普及し、2010年以降にディープラーニング(深層学習)が実用化されたことで、AIが将棋のプロや囲碁のプロに勝利したことは大きな注目を集めました。2020年代に入るとAIを活用したビジネスやサービスも広まり、実用面でも普及してきています。
AIの考案(1900年〜)
1900年代前半ではAIという言葉は使われていませんが、現代のAIの基になる言葉や原型の研究が確認できています。1921年にはチェコのSF劇で「ロボット」という言葉が初めて使われるようになり、1928年には東洋初のロボットである「学天則」が製造されています。
また、1949年にはコンピュータ科学者のエドマンド・バークリーが書籍「Giant Brains; Or, Machines That Think(巨大な脳、または考える機械)」の中で巨大頭脳、機械頭脳という言葉を用いており、「肉と神経の代わりに金物とワイヤで作られた頭脳と同じようなもの」として表現しています。AIという言葉は出てこなかったものの、考え方としては現在のAIとほとんど変わらないところまで研究が進んでいたことがわかります。
第1次AIブーム(1950年代後半〜1970年代)
AIの概念を提唱したのは1950年、イギリスの数学者アラン・チューリングの著書「Computing Machinery and Intelligence(計算機械と知性)」に記載されているチューリングテスト(機械の行動が人間的かどうか判定するテスト)が最初といわれています。このチューリングテストでは、「機械に知性があるかどうか」という考察のもとに行われていますが、機械に知性があるのか、人工知能といえるのかという点では知性や知能の定義に依存するため、答えは出ていません。
その後、1956年に行われたダートマス会議にて、アメリカの数学者ジョン・マッカーシーによって人間のように考える機械のことをAI(Artificial Intelligence、人工知能)と名付けられました。そのため、一般的にはAIの歴史は1956年から始まったといえます。
1964年にはIBMが後世のコンピュータに大きな影響を与えたシステム360というモデルを発売し、コンピュータの黎明期を迎えます。コンピュータが世の中に普及するようになり、次の2つの視点での研究が盛んに行われるようになりました。
- 推論:既知の事実や規則から新しい結論を導き出すプロセス
- 探索:複数の選択肢を系統的に調べ問題の解決策を見つけるプロセス
特定の問題に対して答えを導き出せるようになったことが第1次AIブームの要因となり、自然言語処理による機械翻訳の分野にも注力されるようになりましたが、当時のAIでは複雑な社会問題の解決はできないことがわかり、冬の時代を迎えることになります。
第1次AIブームでの主な出来事には次のようなものがあります。
1956年 | ダートマス会議にてAIという言葉が使われる |
1958年 | ジョン・マッカーシーがAI用プログラミング言語LISPを開発 |
1958年 | フランク・ローゼンブラットがニューラルネットワークのパーセプトロンを開発 |
1959年 | アーサー・サミュエルが機械学習の概念を提唱 |
1965年 | ファイゲンバウム、レダーバーグが最初のエキスパートシステムを開発 |
1966年 | ワイゼンバウムが初の対話システムELIZAを開発 |
冬の時代(1回目)
第1次AIブームの終わりから1980年代の第2次AIブームまでの期間はAIとって、初めての冬の時代と呼ばれています。AIは特定のルールに沿って計算したり、証明したりする能力はあっても現実的で複雑な問題には対応できないことから、研究者に疑問が広がり、AI研究に関連する企業数は減少、研究資金も枯渇するようになりました、実用的ではないという意味で、当時、AIでも解ける問題のことをトイ・プロブレム(おもちゃの問題)と呼ぶ研究者も出ています。
第2次AIブーム(1980年-1987年)
1980年代にはエキスパートシステムと呼ばれる、予めインプットした知識やルールから、専門家のように問題解決をする手法が開発され、第2次AIブームが起こりました。エキスパートシステムは入力された情報に対して、システムが専門家の意思決定プロセスを模倣して回答することで、専門家と対面せずとも専門家と同程度の回答を得ることが可能になるというものです。このエキスパートシステムにより現実的な問題も解決できるようになると脚光を浴び、大企業が積極的にエキスパートシステムを業務に導入することで実用的なツールとして多くの企業に商用利用されるようになったのが、この第2次AIブームです。
しかし、エキスパートシステムへの情報インプットは手動で行う必要があり、例外や矛盾点に対しての柔軟な姿勢を見せるAIを作ることはできず、1980年代後半にはAI研究がとん挫します。
第2次AIブームでの主な出来事には次のようなものがあります。
1980年 | 顧客ニーズに基づきコンピュータ構成を自動選択するXCONが誕生(初の商用エキスパートシステム) |
1982年 | 日本政府の第五世代コンピュータプロジェクトが本格化 |
1984年 | 一般常識のデータベース化により、人間と同レベルでの推論システムを構築することを目的としたCycプロジェクトが始まる |
1985年 | AAAI会議(アメリカ人工知能学会)にて自動描画プログラムAARONが公開される |
1986年 | ミュンヘン大学が運転手なしの自動運転実験に成功 |
1986年 | 後にディープラーニングの基本となる誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)が発表される |
冬の時代(2回目)
第2次AIブーム時代のコンピュータシステムでは、情報を自動的に収集し蓄積する能力がなく、エキスパートシステムに知識を入力する作業には非常に労力を要したため、継続的な作業は困難でした。また、例外的な処理や矛盾への対応に対する解決策がなく、エキスパートシステムには限界がありました。日本でも第五世代コンピュータプロジェクトが始まりましたが、管理の困難さから1992年にはプロジェクトが終了しています。
第3次AIブーム~第4次AIブーム
1980年代後半に冬の時代を迎えましたが、冬の時代でもAI研究は続けられ、1990年代に入るとIBMのディープブルーがチェスで世界チャンピオンに勝利したり、ドラゴン・システムズの音声認識ソフトがWindowsで利用できるようになったりするなど、AIの分野では進化が見られました。AIの実用化の流れを受け、AI研究に対する資金投資熱も高まり、第3次AIブームを迎えます。
コンピュータ性能の向上によりディープラーニングはAI自身がデータ入力できるようになり、ようやく期待されていた水準に到達したといわれています。現在では対話ではChatGPT、画像作成ではMidjourneyのように人間よりも優れた結果を出せる可能性が高くなっています。
第3次AIブームの原動力となった技術として、機械学習の実用化、ビッグデータの活用、ディープラーニングの浸透が挙げられますが、コンピュータが自立して膨大なデータを学習して判断するという特性上、答えを出すまでのプロセスがわからなくなり、AIが判断した基準や原因がわからないという問題(AIのブラックボックス問題)が浮上しています。
現在の技術革新の流れでAIが使われなくなるという将来は見えづらいため、AIの問題点を許容しつつ、うまく活用していく手法が模索されています。責任あるAI(Responsible AI)や信頼されるAI(Trusted AI)、説明可能なAI(XAI)のようにAI倫理やAIガバナンスが重視されるようになっています。
なお、日本のAI研究の第一人者である松尾豊氏は2023年を第4次AIブームの幕開けと表現しており、OpenAIが開発されたChatGPTが世間に公開されたタイミングが転換期とされています。WEB上の膨大なデータを学習することにより、巨大な言語モデルを形成するため、今まで以上に発展を遂げることが考えられます。
1997年 | IBMのディープブルーがチェス世界チャンピオンに勝利 |
1997年 | ドラゴン・システムズが音声認識ソフトウェアをリリース |
2012年 | ビッグデータという用語が提唱される |
2016年 | Googleがディープラーニングによる猫画像認識に成功 |
2016年 | ハンソン・ロボティクスが人間のような外見と感情表現が可能なソフィアを開発 |
2016年 | Googleの子会社DeepMindのAlphaGoが初めてプロ囲碁棋士に勝利 |
2020年 | 自然言語処理モデルであるGPT-3が公開される |
2022年 | DALL-E、Midjourney、Stable Diffusion、NovelAIなどの画像生成AIがリリース |
2022年11月 | 対話型生成AIのChatGPTがOpenAIより公開される |
2023年10月 | 画像生成AIであるDALL-E3が登場。 |
2024年5月 | GPT-4oがリリースされる |
人類とAIの今後
AIの今後がどうなるかはわかっていませんが、ビッグデータの蓄積と拡大により、機械学習がさらに進み、探索、推論、予測が高精度で可能になり、実用化が進むことが考えられます。ディープラーニングの適用範囲も広がっていますので、技術の発展に伴う精度向上があるはずです。結果的には、人間を超えるAIと呼ばれるASI(Artificial Superintelligence、人工超知能)が登場する可能性があります。
この大きな転換点のことをシンギュラリティ(技術特異点)と呼び、2045年には到来すると予測されています。AIが社会や文化に悪影響を与えるという声も懸念もありますが、AIの歴史を振り返ると付与曲折はありつつも、社会問題を解消する手段として活用されていますので、AIリスクを許容しつつも、うまく活用する未来が望まれています。
AIによる労働の代替
2015年に野村総合研究所とオックスフォード大学の共同研究により、国内の601の職業がAIやロボットに代替されるという推定が出ています。人口比率でみると日本の人口の約49%の労働がAIで代替できるということですので、この結果だけを見ると失業や就職機会が減少するように見えますが、同時に次のようにAIでの代替が難しい職業についても言及されています。
「芸術、歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業、他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業は、人工知能等での代替は難しい傾向があります。」
引用:日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に(野村総合研究所)
AI規制と倫理的枠組み
AIにより社会問題が解消するようになる未来が嘱望される一方、AIにより起きた社会問題をどのように解決するかという課題が出てきています。AIをめぐる安全性には国際的意識が高まっており、2024年5月には欧州(EU)AI規制法が成立したこともAIリスクを考えてのものと推測できます。一方、AIは規制するだけではなく、安全に利用するものという考え方もあり、責任あるAI、信頼されるAI、説明できるAIという観点でAIの運用の解決策が模索されています。
最後に
AIの歴史は、技術の進化と共に幾度もブームと停滞を繰り返してきました。1950年代のAI概念の誕生から、現在の第4次AIブームに至るまで、AIは絶えず進化し続けています。機械学習やディープラーニングの導入により、AIは人間のような思考や判断を行う能力を備え、多くの課題を解決する手段として社会に浸透しています。
AI技術は、私たちの生活をより便利で効率的なものにしつつありますが、その一方で新たな倫理的、社会的な課題も浮上しています。AIがもたらすリスクを理解し、責任ある活用が求められるなか、AIは未来を切り拓く重要なツールであり続けるはずです。技術の進化と共に、AIは社会をより良い方向へと導く力を持つことが期待されています。